情熱と想像力作家ウォルター・ワンゲリンの魅力 パッション(情熱)をもって真理を書く作家
鴻海 誠
フォレストブックス編集長
昨年(2001年)7月、アトランタのホテルで初めてウォルター・ワンゲリンと会った。約束の時間、ポロシャツにショートパンツという出で立ちでロビーに現れたワンゲリンは、失礼ながらキリスト教の作家というよりは、野に放たれし自然児といった印象を受けた。精悍な面立ち、筋肉質の体躯、身ぶりや話し方もワイルドで、奔放にエネルギーがからだ全体から発散している。
彼の生活を訊いて、なるほどと思った。朝起きて、6-7時間ぐらい執筆すると、午後は24エーカーもある自分の農場でトラクターを動かすのが日課なのだそうだ。
「トラクターを動かしながら、構想を練ったり、書いたものを頭の中で推敲したりするんだ。僕は何を書こうとか、こういうテーマで書こうとかは考えない。まず書くパッション(情熱)がわいてきて、あとは真理について書こうとするだけだ。」
見た目とちがい、表現はさすが感性豊かである。
さて、ワンゲリンといえば、なんといっても『小説「聖書」』が日本で評判になった。そのことを著者としてはどう受けとめているのだろう。
「アメリカでは自分の書いた本の中で一番売れている本ではないので、なぜ、日本の一般マーケットでベストセラーになったのかびっくりしている。この本を書くとき、自分が持っている賜物を生かし、手作りのものを神さまに献げようと思った。カテドラルやステンドグラスやキリストの像が献げられるようにね。そして、聖書の中に自分が入っていくような感じで書いてみたいと思ったんだ。そしたら、イエスがゴルゴダの丘で十字架につけられるところまできたとき、涙が出た。自分がイエスといっしょに歩んでいるような気持ちになった。」
幼いときから作家になりたいと思っていたという。だからおびただしい数の本を読んだ。1978年、初めて書いた小説『The Book of the Dun Cow』(寓話で善悪の戦いの世界を描き出すファンタジー小説)が全米図書賞を受賞し、ニューヨークタイムズ誌のブック・オブ・ザ・イヤーにも選ばれて、本格的に作家生活にはいった。これまで著した本は約30冊。小説の他に、詩、子ども向けの本、信仰書などジャンルは多岐にわたる。
「作品が多様であることは自分にとって自然なことだ。昔の作家は何でも書いたよ。ジョン・ミルトンなども、小説、詩、歌詞、神学書といった具合に。僕もいろいろなスタイルで書いていきたいんだ。」
そういえば、職業だって作家一筋というわけではない。大学教授でもあるし、最近までルーテル教会の牧師も務めていた。
「僕は今、57歳。本当に書けるのはあと数年か、神さまがもう少しいいよと言ってくださったなら、あと十数年書けるかもしれないが、いずれにしても、そんなにたくさんの時間が残されているわけじゃない。与えられている時間を、浪費せずに書いていきたいと思うね。」
一足先に日本のキリスト教界に紹介されたフィリップ・ヤンシーとは親友である。ヤンシーから日本について聞かされているのか、まだ見ぬ東洋の国に興味津々の様子だ。邦訳出版記念のために、この秋、初来日の予定である。大の親日家がまた一人誕生しそうな気がする。