情熱と想像力作家ウォルター・ワンゲリンの魅力 著作『十字架の道をたどる40の黙想』より

ウォルター・ワンゲリン氏

第十三日目 水曜日
マルコの福音書14章32-42節

 夜。地上のことには無関心な星々から冷たい光が降りそそぎます。細かい雪のようなその光は、蒼白く地面に落ち、市外へと向かう悲しげな男たちの髪や肩の上に降りそそいでいます。

 一行は黒々とした木立のそばで足を止めます。そこで四人が一行から離れ、木立の中へと入っていきます。

 耳を澄ましてください! 一人の男がうめいています。その息づかいは何かに迫られるかのように、速く激しくなっていきます。ほら、聞いて。「おぉ、神よ。おぉ。」今、彼ひとりが、木立のさらに奥へと入っていきます。ほかの三人はそれぞれ地面に身を落ち着け、木の幹にもたれます。そしてうとうとし始めると、すぐに眠ってしまいます。

 森は蒼白く、静まり返っています。
 あの男は、今ではたったひとり、目まいでもしているかのように顔を両手にうずめ、前へ後ろへふらついています。と思うと、突然、地面にくずおれます。「アバ! アバ!」その声は喉に絡みつき、指は木の根のように地面にくい込んでいます。顎とひげとはすっかり地面に押しつけられています。

 「アバ、父よ、こればかりはご勘弁ください。お願いです! あなたは何でもおできになります。ですから、この杯をわたしから取りのけてください――」

 男の声は、喉から絞り出すうなり声のようにしゃがれています。しかし、それから空気を吸い込むと、声を振り絞ってどなります。「あの杯には地獄が入っている! 死と永遠の刑罰が入っています! 父よ、わが父よ、わたしはあなたから引き離されてしまいます! いやだ、飲みたくありません! いやです! あの杯には罪が入っている――それを飲めば、あなたはわたしを顧みられず、わたしを嫌悪なさるでしょう。そしてわたしは自分自身を憎むでしょう! どうぞご勘弁ください! アバ、アバ、杯をわたしから取りのけてください――」

 男は木立の下で身をよじり、緊張した不自然な姿勢で顔を天に向けます。両の瞼は閉じられ、歯の間からは息が鋭く漏れています。歪んだ顔は笑っているかのようです。それから、木の葉がそよぐような、ほとんど聞き取れないほどの声でささやきます。「しかし……わたしの願いではなく……あなたのみこころが……なされますように。」

 蒼白い星の光の中、男がほかの三人のもとに戻ってみると、彼らはいびきをかきながらすっかり前のめりになっています。男はたったひとりです。友がすぐそばにいるというのに、完全に孤独です。

 それから男は、先ほどの祈りなどなかったかのように、二度目の祈りをささげます。祈っているうち、額から汗が流れ落ちます。「アバ!」というその声は、森に響く狼の遠吠えのようです。――それでもまだ、友は眠りから覚めません。

 三度目、男はじっとからだを動かさず、苦悶を自らのうちで静かに祈りに託します。暗闇の中、完全な静けさの中で、答えを待っているのです。

 そして最後に友のもとへ戻って来ると、友を起こし、自分が裏切られたというニュースを伝えます。「立ちなさい、さあ、行くのです。」その時、この孤独な男がしていたことは――飲むこと。飲むこと。

 主よ、あの杯には、私の死が、私の罪が、私の地獄が、私の受けるべき永遠の刑罰が入っていました。

 感謝はことばに尽くせません。

 驚きに沈黙するほかありません。

 私のいのちはあなたのものです。

アーメン