教会の成熟を妨げている“心の傷”に福音の光を
『情緒的に健康な教会をめざして』 『情緒的に健康な教会をめざして』
ブック・レビュー
工藤信夫
平安女学院大学名誉教授、精神科医
人格的貧しさ露呈する日本のキリスト教会に再考迫る内容
本書は今日の日本のキリスト教界やその宣教姿勢に反省を迫る貴重な本である。とりわけ「福音は果たして届いているだろうか」と戸惑う人々や「今日、聖書は聖書として正しく読まれ、生かされているだろうか」と問う人々にとって深い説得力を持つ大切な本である。
「ピート、私はあなたを愛しているけど、もう教会に行かない。教会は私にとっていのちではない。死だわ」。妻のこの一言は著者を救うことになる(本書二十八頁)。
もうおしまいだと思うこの危機が実は本当の人生の始まりであることをやがて著者は知ることになるのだが、私たちの中にもこの著者同様、四十五人の礼拝出席を二百五十人に拡大しても、その働きは仕事中毒の域を出ず、聖職者の内面はなんら耕されず不毛で、弱さより強さに、恵みより教義に、挫折より成功に価値を置くキリスト者像が隠れているのではないだろうか。「情緒的な健全性がなければ健全な教会は生まれない」と主張する本書は著者自身の正直な失敗の告白である。
・私のこれまで受けてきた福音的教義の中に情緒的要素が組み込まれてなかった・という著者の主張は人間的、人格的貧しさを露呈している今日の日本のキリスト教界に反省と再考を迫る。分かりやすく訳された本書は広くキリスト者の心を豊かにしてくれるにちがいない。