教会の記録を残そう
『教会アーカイブズ入門』のススメ 第3回 記録の残し方

新井浩文
埼玉県立博物館(現歴史と民俗の博物館)学芸員等を経て、 現在、埼玉県立文書館主任学芸員。

『教会アーカイブズ入門』のススメも第三回となりました。今回私が担当するのは「記録の残し方」です。具体的には、教会資料の収集と保存に関して述べてみたいと思います。
教会の記録資料はどこにあるのか?
まず、教会の記録資料はどこにあるのか。
その収集にあたって最初にやるべきことは、記録資料の所在確認調査ということになります。
記録資料の大半は教会の事務室に大切に保存されていると思われがちですが、実は教会記録の保存に関する規則や規程を設けて、きちんと保管している教会は意外とまれで、教会役員や教会事務にあたった個人が所蔵しているケースがほとんどなのではないでしょうか。そのため、記録資料の収集に際しては、まず教会員に対して、それぞれの家や倉庫に眠っているかもしれない関係資料の提供(供出?)を求めることから始めなければなりません。

記録資料は多種多様?

一口に教会記録といっても様々ですが、教会組織の変遷を知るための根本記録として、毎年の「総会資料」や「週報」といった刊行物は最低限必ず必要な記録資料となります。また、これらの刊行物のほかに写真や行事案内のチラシ、リーフレット、さらには紙資料だけでなく、ワープロ登場以降は、文書作成に使用したデータが保存されたフロッピーディスクやCDのほか、各種記念行事で録音された説教・講演会の録音テープ・ビデオ・DVD、さらには、教会員から聞き取り調査を行い、それらを文字に起こしたデータも貴重な資料となります。
なお、ここで注意しなければいけないのは、過去のフロッピーディスクが、現在のパソコン機器で読みとれるかといった問題です。日進月歩で進化しているOA機器は、ハードだけでなくソフトが変わってしまうと過去のデータを読みとることができません。教会記録をすべて電子データで残したまではよかったものの、将来そのデータが読める保証は残念ながらないのです。
よって、場所があるなら紙ベースで残すこと、それが難しければ、常に今あるデータを最新のOA機器で読めるようにデータ変換しておく作業が必要になります。

教会資料の敵を知る

次に、収集した資料をどのように保存していくかについて述べてみたいと思います。
前回の話の続きですが、教会史編さんのために収集した資料は、単に教会史編さんが終了した時点で必要性がなくなるのではありません。むしろ、編さんを契機に集められた資料を「教会アーカイブズ(記録資料)」として、次世代の教会員のためにも永久に未来へ残していくことが肝要となります。そのためには、まず残された資料を保存する際の敵を知ることが必要となります。
教会資料の敵は大きく物理的要因(光・温度・湿度)・化学的要因(大気汚染・酸性紙)・生物的要因(昆虫・ネズミ・ヒト)の三つに大分類されますが、これらの三大要因を一度にクリアするのは困難です。そのため、まず資料の身近なところから段階的に環境を整備していく必要があります。

教会資料を残すための具体策

まず教会資料の保存場所としては、温度・湿度が安定している場所を選び、窓があるなら厚手のカーテンで遮光します。夏場で西日があたるような部屋は避けたいですし、また、昼間と夜の温度差がある部屋だと冬場は結露して壁にカビが生えたりしますので、空調も場合によっては必要となります。事前に温湿度を一定の期間計測してから保管場所を選ぶと良いでしょう。
次に、藁半紙等に印刷された教会資料は、紙そのものが空気と反応して茶変色し、パリパリとなる酸性劣化が進みますので、市販の中性紙製封筒に入れ、さらに中性紙の保存箱に入れて保管するのが望ましいでしょう。それらの箱を収納する棚や書架があれば良いですね。
また、虫やネズミ対策は、保管場所の清掃から始めます。塵や埃は微生物やカビの温床となりますし、また保管場所での飲食はネズミやゴキブリを誘引することになるので避けましょう。さらに目視で虫やネズミの進入がないか確認した上で、市販の防虫剤(ピレスロイド系のもの)を箱に入れておくのも有効です。なお、写真やフィルム・ビデオ等は温室度の影響を受けやすいので、早めにデジタル化しておくことをおすすめします。
教会資料を残すには、地道な日々の努力が大事ですが決して難しくはありません。あなたの教会でもできることから始めてみませんか。