教会の記録を残そう
『教会アーカイブズ入門』のススメ 最終回 教会アーカイブスの未来
山口陽一
東京基督教大学教授・大学院神学研究科委員長・日本同盟基督教団牧師
私からスタートし、鈴江英一、新井浩文、杉浦秀典、阿部伊作とつないできたリレー連載はいかがでしたか。鈴江氏が、「教会史が三年でできる」前提として、教会が資料を残し、それが整理されていることと書けば、新井氏は、記録の残し方と保存の方法を具体的に指南。杉浦氏が賀川豊彦の「活動記録」を例に、日々の記憶の記録化を提案すれば、阿部氏がアーカイブズ的信仰生活のススメを熱く語りました。なかなか息の合ったバトン・リレーではなかったかと思います。
教会アーキビストを育てる
福島第一原発の事故において、政府の原子力災害対策本部が議事録を残していなかったことが問題となりましたが、牧師や役員会書記は、職務として資料を残すように教会規則で定め、加えてアーカイブズ係がチェックすれば万全です。私は年間二十~三十の教会を訪ねますが、大小を問わず、各教会には資料収集と整理に長けた方がおられるように思います。そんな方に教会アーカイブズ係になってもらってはいかがでしょうか。特別な知識がなくても、忠実に資料を整理・保存できる方は、立派な教会アーキビストです。
さらに各教団の歴史編纂担当者間の交流と研鑽、教派を超えたアーカイブズ入門講座や、教会史の書き方セミナーなどがあったらよいと思います。
たとえば、私が勤める東京基督教大学は、戦後に盛んな伝道をした「福音派」諸教派を背景に設立されていますから、これらの教派の資料の収集と保存に責任があると思っています。すでに小さなアーカイブ室を設けていますが、活用はこれからです。この四月にスタートした牧師養成のための大学院では、日本キリスト教史の演習において各個教会史編纂についても扱う予定です。
教会史編纂委員会を設けて教会史を編むためには、やはり牧師の意識が肝心です。牧師会や教区の会議などで講座を設けてくだされば、『教会アーカイブズ入門』を抱えて、研究会メンバーが伺うこともできると思います。
歴史的な教会を形成する
日本のプロテスタント教会は、ヨーロッパの老舗教会に連なることを意識的に拒否して始まりました。
一八七二年に設立された日本基督公会の「日本基督公会条例」(一八七四年四月)第二条例(公会基礎)は言います。「我輩ノ公会ハ、宗派ニ属セズ、唯主耶蘇キリストノ名ニ依テ建ル所ナレバ、単ニ聖書ヲ標準トシ、是ヲ信ジ、是ヲ勉ル者ハ、皆是キリストノ僕、我儕ノ兄弟ナレバ、会中ノ各員全世界ノ信者ヲ同視シテ一家ノ親愛ヲ尽スベシ、是故ニ此会ヲ日本国基督公会ト称ス」
「単ニ聖書ヲ標準トシ」とは、その非歴史性を聖書主義として表現したものです。熊本バンドの「奉教趣意書」や札幌バンドの「イエスを信ずる者の契約」に至っては、教会によらないキリスト教運動の始まりでした。
こうして始まった日本のプロテスタント教会は、二〇一〇年時点で、七、九一六教会となっています(教会インフォメーションサービスより)。最大教派は、日本の教会の合同を理念とする日本基督教団で一、六九九教会あり、次いで教会数が多いのは、単立教会の七二三です。
つまり日本のプロテスタント教会は、歴史的教派に連なるより、日本の教会であること、また全体教会より各個教会に比重を置いて形成されてきました。連綿と続く町ではなく、一世代限りのニュータウンのような教会が多く、〝私の教会”として、愛着をもって各個教会史が書かれるのも特徴と言えるでしょう。
ここに活力を見出すこともできるでしょうが、教会の本来のあり方である歴史性を生かしながら、継続的に主の教会らしくあるために、ともに一つの主の教会の歴史を共有できたらと願うのです。
教会アーカイブズの展望
今日のインターネット社会を考えれば、教会アーカイブズの展望においてもキーワードは〝ネットワーク”です。国立国会図書館のデジタルアーカイブの発展はめざましく、私も近代デジタルライブラリーをよく訪れます。そこで思うことは、日本キリスト教史の書物はもとより、新聞や雑誌、教会記録からトラクトまで、そして各個教会の資料に至るまでを自由に閲覧できたらどんなにすばらしいだろうかということです。そうなれば、自然災害から資料を守ることにもなるでしょう。
私たちが「日本キリスト教デジタル文書館」のようなものを夢見るのは、それによって日本の教会が歴史の教会に連なり、一つであることを確かめるために他なりません。