時代を見る目 107 日本宣教と本(1) 『幕末明治耶蘇教史研究』
千代崎 秀雄
日本ホーリネス教団清水教会 協力牧師
日本宣教が進展するためには、これに関わる者たちに多くのこと(努力、工夫、研究など)が必要だ。特に日本と日本人についての、より深い理解を得ることが──。
先日『幕末明治耶蘇教史研究』(小沢三郎著 日本キリスト教団出版局 品切中)を畏友K氏よりお借りして、日本宣教史をあつかった労作だと感嘆しつつ読んでいる。感嘆の理由の第一はもちろん内容だが、第二は本書が世に出た時期。1944年、日本の敗戦、そして亡国寸前であった。あの大変なときに、よくぞこれだけの本を! 調べ、書き、刊行したものだとツクヅク感動する。内容は本文12章。日本宣教史を学ぶ上で、汲んでも尽きぬ霊泉、掘っても限りない鉱脈のようだと思う。
幕末明治の開教期に日本では、カトリックを天主教と呼び、プロテスタントをヤソ(耶蘇)教とよんだ。この時期に日本宣教にたずさわり、聖書その他を中国語訳した例が多く、それらの労の果実が日本開教においていかに大きな貢献をしたかは、いまの私たちの想像をはるかに超えるものがあったようで、主の摂理の深さと貴さは感無量である。
明治5年は、日本政府の切支丹政策が激変した年(117頁)、その前に中国宣教の歴史があり、宣教師たちは中国文だけでも約800種の著訳書を出版している。
鎖国は破れ、諸港は開かれ、中国語訳された欧米の諸書が日本に流れ込んだ。その中には自然科学書や人文科学書もあるが、もっぱらキリスト教のことを書いた耶蘇教書もあった(143頁)。なお9章の「天路歴程の日本版について」や、12章「耶蘇教宣教師と維新前後の日本文化」の中の「J・C・ヘボンの人柄」(255頁)は目が開かれることが多い。
著者小沢氏は1909年生まれ、69年逝去。行年60歳といえば今ならまだ若く、このあとの活躍と研究の大成が期待されるが、氏は戦時中に出征、戦場での無理がたたって持病に苦しみながら、研究、講演、執筆活動等を続け、氏を知るすべてのひとに惜しまれつつ帰天。
このような人を主が日本に遣わして下さったことは、日本人(特にキリスト者)がどれほど感謝してもしすぎることはない。