時代を見る目 108 日本宣教と本(2) 一神教と日本人
千代崎 秀雄
日本ホーリネス教団清水教会 協力牧師
過日、所用あってお茶の水へ行き、駅前の書店で一冊の本が目にとまり、早速買った。『一神教の誕生─ユダヤ教からキリスト教へ』加藤隆著・講談社現代新書、である。
多神教の国日本での宣教は、パウロのアテネ宣教に似ている。「死者の復活のことを聞くと、ある者たちはあざ笑い、ほかの者たちは、『このことについては、またいつか聞くことにしよう。』と言った。」(使徒17章32節)。
唯一神、創造主、贖い主、復活の主についての熱烈な宣教メッセージも、じつに冷淡な反響しか得られなかった(少数の熱心な信仰者も起こされたが)。パウロは少々失望してコリントへむかったらしい。さいわい、その後のマケドニア等での宣教は祝されて多くの成果をあげた。これはアテネでの小失敗から得た教訓に関係ありそうだ。
八百万の神々になじみ深く影響甚大な日本人にとって、一神教の理解と受容はやさしくない。しかし、国際交流、情報洪水の時代、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教という「三大一神教」の関係についての理解ははなはだ重要であり(とくに一昨年9月11日の同時多発テロに觸発されて)、その意味で冒頭に紹介した書は、用い方によってはごく有益である。
著者は相当な博識と思索力をもってこの問題と取り組み、その解決のために豊富な手がかりを提供している。ユダヤ教とキリスト教をおもにとりあげているわけだが、この両宗教の正しい理解は私たちにきわめて必要である。中でも神殿と律法に関する分析は大切な点をついている。
多神教か、せいぜい拝一神教どまりの日本人にとって、一神教は不可解に近い。ましてその一神教間の関係はより難解であり、同時多発テロ以来世界各地で頻発し始めたトラブルはいっそうその感を深くしよう。
キリスト者にとっても、福音の明確な把握受容のために、そして宣教のために、他の二大一神教について学ぶことは益するところ少なくない。
21世紀初頭のこの時代は、ますます複雑で混迷を深めている。この時代の暗夜に惑い悩む人々に、教会は正しく明るい燈火を提供する責務が、きわめて大きいと信じる。