時代を見る目 183 子どもの世界<3>
「心を聴き合う」ことで育つ愛、生きる力
瀬底ノリ子
カンバーランド長老 高座教会/社会福祉法人星槎青葉台保育園勤務
勤務している保育園に一冊の美しい絵本が送られてきました。『ねえねえ、あしたもいっぱいおはなししようね』(文・すずきみのる、画・たちもとみちこ、発行・学校法人日本聾語学校)という書名でした。聴覚に障害をもった赤ちゃんが、お父さんとお母さんの愛の中で音の世界、言葉の世界を広げて育っていく深い、心あたたまるエピソードが展開されています。健康な聴覚をもつ赤ちゃんも全く同じプロセスで、周囲の人々との愛の交歓の中で「ことばがわからなくても、お母さんのやさしさを、こころとみみできいた」という経験をしながら言葉を獲得していきます。本書の解説に「音というのは不思議なもので、聞こうとしなければ耳と心に届かず、聞き流してしまうものです。ことばも、心の中にある想いを『聴きたい』という意志を持つことで理解していきます」と記されています。心の中にある想いを聴きたいという意志を持つことが、言葉を理解していくこと、人は「心を聴き合う」ことによって、愛の中で育てられていることを体感し、安心と喜びの中で成長し、生きる力を互いに与え合うことができるのだと、この愛に満ちた本は伝えています。
私たちはどれだけ、子ども達に対し、周囲の人々に対し「聴きたい」という意志をもって接しているだろうかと考えさせられました。園の子ども達の中に座り、同じ目の高さになると、子ども達が近くに寄って来て、あれこれ話しかけてくれます。子ども達の心を聴きたいと思って微笑みかけると子どもたちは心を開き、時には言葉にならない言葉で楽しかったこと、感動したことをはっきりと伝えてくれます。心を聴き合えることは、何にも代えることのできない生きる歓びであり、感動です。
もうすぐクリスマス。貧しい羊飼いたちは「きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです」と伝える天使の声を聞きました。羊飼いたちは、天使の声を聞き流さなかったのです。そのメッセージを、耳と心で聴き「主が私たちに知らせてくださったこの出来事を見て来よう」と行動し、主イエス・キリストにお会いしたのです。
騒音に満ちたこの世界の中で、私たちは聞き流すことに慣れてしまい、聴く意志を喪失してはいないでしょうか。小さいけれど確かな神様のみ声が響いています。愛を求める人々の声が聞こえます。聴く意志を持ちたいと願います。