時代を見る目 198 子どもホスピス [3]
「小さな願い」
鍋谷まこと
淀川キリスト教病院 小児科部長
2009年にシスター・フランシスが来日してから、いくつもの子どもホスピス設立の動きが日本各地で見られるようになりました。鎌倉、奈良、大阪、北海道、九州とその動きは着実に広がっています。
神戸にも「御影ブランチ」という子どもホスピス設立を願う小さな集いが生まれました。シスター・フランシスも自身が所属する修道院をベースに活動を広げられましたが、御影ブランチも神戸にある修道院「母の家 ベテル」をベースに活動を始めました。その活動には多くの「小さな願い」が集まりました。私もその一人ですが、参加者の多くが、ごく身近に子どもや肉親の死を体験していました。そしてそのときの体験の中から、漠然とではありますが、日本にも英国の子どもホスピス「ヘレンハウス」のような施設があればと感じたようです。
御影ブランチの2回の集いでは、皆が“子どもホスピス”実現への願いをスケッチブックに書きとめ、その実現のために思いをひとつにしました。ある方は、ご主人を突然の病気で亡くされたばかりでしたが、その悲しみの中でご主人の遺品の絵や遺産の一部を子どもホスピスの活動に捧げたいと申し出されました。またある方は引っ越しをされたマンションの一部を、その遺品の絵を飾ったり、「御影ブランチ」や子どもホスピスの記録を保存するのに使ってほしいと申し出されました。一つひとつの小さな願いが、皆の「実現への祈り」を通してつながっていくように感じられます。
現在、私が所属する淀川キリスト教病院においても、2012年秋の新病院への移転に合わせて子どもホスピス開設を検討しています。日本にはまだ病院付属の子どもホスピスはありませんから、もし実現するなら日本で最初の試みとなります。これは、新生児の交換輸血やホスピス病棟、病院ボランティアなど日本のパイオニアとして歩んで来た当病院にとっても、新たな大きなチャレンジと言えます。
子どもホスピスに対する保険点数や国の補助などは全くまだ何もない状態ですから、採算的には決して楽な道ではないでしょう。しかし多くの方の願いと支援があれば、この夢は単なる夢で終わらないでしょう。今後も皆様の祈りに覚えていただけますと幸いです。