牧師のメンタルヘルス2
牧師家族のメンタル・ケア
丸屋真也
IFM(家族・結婚研究所)代表 兼 相談室長
牧師家族のメンタル・ケア
1 はじめに「心の病」は一般社会でも問題になって久しいですが、クリスチャンにとっても例外ではありません。しばしば、クリスチャンは心の病を霊的な問題と混同しがちで、メンタル面からのケアが遅れることがあります。それに加えて、牧師家族は他の要因も重なってストレスが慢性化しやすく、意識してメンタル・ケアをすることが重要になります。
2 牧師家族が置かれている特殊な状況
①牧師職ほど家庭生活と一体となる職業は他には余りありません。それが祝福となっている反面、牧師家族のストレスの原因にもなるのです。つまり、牧会の働きと家庭生活が互いに影響し合い、家族はどうしても緊張を強いられるのです。
②牧師家族は教会では目立ちやすいため無意識的に教会員の期待に応えようとして、子どもたちに知らずに高い基準を強いてしまうようになるのです。そのことが子どもたちの心の成長にマイナスに働くこともあり、思春期の問題の原因にもなるのです。
③牧師職は不規則なスケジュールや緊急な出来事も多くあって家族のための時間が十分に取れないだけでなく、約束した予定が守れないことも少なくないのです。家族は主の働きのためだからという思いが強いため、その不満をどこにもぶつけられずフラストレーションがたまってしまうのです。
④牧師家族は経済的なプレッシャーの中で生活をしていることが少なくなく、経済的な必要があっても「お金のことは霊的ではないのでは」と考えると黙ってしまい、それがストレスを更に高めることになるのです。
3 メンタル・ケアと対応
①牧師は教会員に対して教会の中での家族の役割や責任についてしっかりと説明し、理解してもらうように努めることです。妻と子どもが受け入れられないようなことは担わせないことが非常に大切です。又、牧会を前任者から引き継いだ場合は、前任者の家族とは違うことを明確に理解してもらうことが重要です。
②牧師館が教会堂と一緒になっている場合は家族のプライバシーを守ることに注意が必要です。例えば、教会員が牧師館を訪ねてきた場合は、教会堂に移って話をするよう習慣化すると家族のプライバシーを守る助けになります。又、子どもと大切な話しをしている最中に電話がかかってきた場合は、緊急のとき以外は短めにして子どもとの会話に戻るようにすることです。
③牧師と比べて牧師夫人の研修の機会が極端に少ないのが現状で、これでは妻と夫との成長のギャップが広がりますので、研修に参加できるよう励ますことです。これは妻個人の成長のためだけではなく、家族や教会にとっても大きな祝福になるのです。
④牧師家族のメンタル・ケアについて鍵を握っているのは夫であり父親である牧師自身であることを忘れてはなりません。使徒パウロは第一テモテ三章四~五節で「自分の家をよく治める」よう命じています。牧師自身がリーダーシップを取って教会側に働きかけなければ牧師家族が置かれている特殊な状況の中でストレスから守られることは難しいのです。
牧師家族のメンタル・ヘルスを維持することは、牧師自身の働きにとって不可欠なことです。しかし、メンタル面の問題は見えにくいために対応が遅れがちになりますが、メンタルの問題があると最初に現れやすいのが体調面ですので、体調不良を訴えたとき、特に長引いたときはメンタル面の問題も疑いながらケアする必要があります。自分たちだけでの判断ではなく専門機関との相談も念頭に置くことが大切です。
丸屋真也
1947年、生まれ。臨床心理学博士。聖書神学舎を卒業後、5年間牧会を行う。その後、アメリカに留学し、18年間、神学と心理学を学ぶ。帰国後、2006年にIFM(家族・結婚研究所 http://www.ifm-soudan.org/)を設立し、代表を務める。『ライフスキルで人生を変える』(いのちのことば社)など著書多数。