私のおすすめ 編集者が選ぶこの一冊!
『さよならボート』

『さよならボート』
峯島知子
フォレストブックス編集担当

「死がすべての終わりではない」ことをみごとに伝えている一冊

 大好きな人が亡くなった時、子どもはその「死」をどう受け止めるのでしょうか。そして、死がすべての終わりではないことを知る信仰者の大人は、その希望を子どもにどう伝えたらいいのでしょうか。

 今回ご紹介するこの絵本は、「死がすべての終わりではない」ことをみごとに伝えている一冊です。

 テキストには「死」という言葉はでてきません。語られるのは、いつも一緒に楽しい時をすごしたおばあちゃんがボートに乗ってどこかへ行ってしまい、やがてボートとともに姿が見えなくなってしまうという、ただそれだけです。でも、残された孫たちがさびしくて涙を流す様子や、グレーを多用し暗く描かれた場面から、おばあちゃんがいなくなったことがとても悲しいことであると伝わってきます。「死」という言葉を知らない子どもにも、大好きな人が目の前からいなくなってしまう喪失感を十分理解することができるのです。

 読み進めると絵本の中の孫たちとともに子ども読者は、おばあちゃんがむかった新しい世界がけっしてさびしい場所ではないことを理解していきます。それはまず、おばあちゃんの乗ったボートがむかう先に、黄色い光が輝いていることで読みとることができます。読者は、おばあちゃんが遠くへ行ってしまったことが悲しいだけでは終わらず、新しい希望ある始まりであることを感じ取ることができるのです。

 そしてもう一つは、この絵本全体の場面の描き方です。絵は見開きの中にいくつもの場面が分けて描かれ、白い余白がとってあります。一瞬一瞬のうつろいを連続して描かず白い余白をおくことで、読者はその間にある登場人物の感情を想像します。すると、飛び去るように思える一瞬にも、悲しみを乗り越え、心を成長させることのできる時間があることを知るのです。

 本書に描かれる一瞬の重みを静かに受け止めると、一瞬の積み重ねである命の大切さを感じずにはいられません。子どもがこの絵本の絵から自分の鼓動一つひとつの大切さを知るとき、おばあちゃんがむかった先にある希望に満ちた新たな世界を自然と受け入れることができるのではないでしょうか。