草ごよみ 6 シロバナノヘビイチゴ
上條滝子
イラストレーター
昔の子どもは、木や草の実の食べられるものなら、なんでも食べてみたものだ。東京に生まれ育った私でさえ、庭や原っぱで見つけたコゴメザクラやユスラウメ、ナワシロイチゴやグミ、カジイチゴなどのオレンジ色や真っ赤でつやつやとした実を口にした経験がある。
さすがにヘビイチゴだけはヘビの名に恐れをなして食べてみようという子は一人もいなかった。大人になって、こんなに身近な草で黄色い花や真っ赤な実も見ようによってはかわいくもあり、毒でもないのになぜ見向きもされないのかと、試しに一度摘んで食べてみたことがある。残念ながら名前から来るイメージの悪さばかりでなく、すかすかして味も素っ気もなく食べるほどのものではなかった。
しかし、シロバナノヘビイチゴは違う! なぜヘビイチゴの仲間のような名なのか疑問に思うくらい、花形だけでなく花の付き方や実の形だって大いに違う。真っ赤なつやつやした実は、小さなイチゴそのもので、その香りときたら! 一つ二つ熟し始めるとあたりに甘酸っぱいイチゴの香りが強く漂う。味は甘酸っぱい濃い味だ。私たちが食べるイチゴは年々品種改良が進み、大粒で甘い果汁たっぷりのものだから、それに慣れてしまった口には酸っぱく感じられるかもしれない。けれど私には味も香りもずっと濃厚で、昔のイチゴってこんなだったと思わせてくれる。
人里のヘビイチゴに比べてシロバナノヘビイチゴは山の開けた草地の植物だ。山でこのイチゴに出会って食べたことのある人は山の恵みの素晴らしさを味わった幸せ者だ。