読む 岩渕まこと。 岩渕まことインタビュー(1)

この本にはどんな内容を書いておられるのですか。

 もう十年くらいになるでしょうか、MAKOTO BOXという自身のサイトを、インターネット上にオープンしました。その中に「心の旅」という自身のことを書き溜めたコーナーがあり、子ども時代から最近までのことを掲載しています。この本はその内容を柱に、加筆しました。
 小学校では登校拒否児だったこと、十代のバンド時代のこと、キリストとの出会い、ゴスペルシンガーとしての歩みなどを知っていただくことができます。また書き下ろしのエッセイを加え、最近の出来事、想いも知っていただけると思います。
 また趣味の写真やディスコグラフィーも掲載されており、岩渕の世界をより知っていただけるでしょう。
 全体的には頑張るというよりは自然体で生きるということが一貫して流れているのではないかと思います。

サイトを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

 自分が関わった出来事、人のことなどをサイトに記してみたら、訪ねてくださった方々の興味に応えることができるのでは、と考えたところからスタートしました。

書名にはどんな思いを込められたのですか。

 これは編集者の方が提案してくださいました。結果重視、成果主義の社会がどんどん加速していくように感じる昨今です。私はよくのんびりとした「癒し系のシンガー」に思われますが、実のところはせっかちな男なのです。この書名のアイデアを聞いた時に、僕にとっても各駅停車が必要だなと感じました。
 せっかちな欠点だらけの自分でも、振り返って記してみれば、そこにひとつの道筋が見えてきます。自分自身が気づくと気づかないとにかかわらず、今日まで大きな存在に見守られてきたことを思い、このタイトルに決めました。

書きためたものを、本という形で総覧して気づいたことはありますか。

 多くの人に囲まれて、助けられて今があるということです。私は音楽で生きてきましたが、特別な勉強もせずにここまでくることができたことを思うと、与えられていることがいかに多いかを思います。そして家族。母と妻、子供たちの存在の大きさです。

書くことの面白さは、どんなところにありますか。音楽との共通点はありますか。

 僕は歌にしても文章にしても、初めに全体像をイメージして作り始めるわけではありません。書き始めるエネルギーになるインスピレーションがあれば書き始めます。ですから途中で頓挫するものも多くあります。文章も音楽も何もなかった白紙の土地に風景がうまれるような楽しみがあります。基本は自分が「ことばが好き」というところが大きいのかもしれません。

この本ができあがった現在の、ご感想は。

 実はまだ実感がありません。多くの方の目に試されて、感想などをいただくうちにことばになってくると思います。ひとつはっきりしているのは人生で初めての本だということです。

音楽にも表れていますが、岩渕さんの「自然体」の雰囲気は、どこから生まれるのでしょうか。

 実は過去に「夜もなく昼もない」というほどめまぐるしい暮らしもしてきましたし、絶望の淵に立ったこともあります。人間をやめたくなった時もありました。
 根は他人の顔を気にしながら生きている、ごく普通の情けない人間です。そんな私を見捨てずに歩かせてくれたキリスト。気づいてみれば僕はかなりキリストに任せる人になりました。自分の持っている信仰は、熱い信仰、ゆるがない信仰と言えるようなものではないかもしれませんが、キリストの「歌わなくてもいいよ」との声を聞くまでは「歌おう」と思っています。「私がわたしでいられる場所にあなたを見た」。これは私の楽曲、「今が過ぎる前に」にある歌詞ですが、私は、自分らしいテンポで、自分らしく生きている所にキリストが一緒にいてくださると、ずうずうしく信じています。

ライブ活動は年間、何回くらい行っているのですか。

 実はコンサートの回数を数えません。それはふたつの理由からです。ひとつは今年○回コンサートがあるから生活できるとか、できないとか考えるからです。神様が必要なものを与えてくださるというのに、結局回数かい?と思ってしまうんです。
 もうひとつは、数字が多いから内容が伴うとは限らないからです。一年に一回でも珠玉のコンサートがあるでしょうし、一年に三百回歌っても何も心に残らないということがあります。こんな理屈をこねるところが私の青さですし、ひねくれているところです。