迫られる危機対応―次の災害にどう備えるか ◆震災ボランティアは何ができるのか
播義也
恵泉キリスト教会 埼京のぞみチャペル牧師
私は、二〇一一年四月から、牧師を続けながら宣教団体であるJCGIネットワーク主事として奉仕することになり、訓練の一環として三月上旬に行われたその宣教団のリトリートに参加していました。その宣教団の宣教師たちは、直前に、関西で「クラッシュジャパン」のセッションを受けてきたので、自然と会話は、災害のときにどう対処するかというものになりました。そしてそのセッションの最中に、あの東日本大震災が起き、私はそのJCGIから「クラッシュジャパン」へ派遣されることとなりました。
それからは、牧師として歩んできた私は、全く体験したこともない世界に放り出されたようでした。毎日、世界中から何百通も来るメールに対応しながら、電話ではアメリカからの支援物資のコンテナをどこの港に揚げればいいか教えてくれという問い合わせに答えるという、まさに水の上を歩くペテロの気持ちでした。それから、刻々と変化していく被災地の状況に対応しながら、自分たち災害支援団体も絶えず人が入れ替わり、非常に困難を覚えた一年間でした。
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東日本大震災から三年が経ち、少し冷静にあの時のことを整理し、学んだことを悟りたいと思わされていたときに、『震災ボランティアは何ができるのか』を読み、あの時の記憶が呼び覚まされました。本書でここまでまとめて書かれていることに感謝しました。スリランカで同じように津波の被害に遭ったエイドリアン・デベッサ牧師が、三・一一直後に、「被災地には三種類の人が存在する。その優先順位に気をつけるように」と言われました。それは、①震災前からその地に立っている現地の教会、②次に震災前からその地域と関係している教会や団体、③そして震災があったから、その地に遣わされてきた教会や団体で、その順番を間違えてはいけないと教えられました。
この記録は、あくまで三番目の団体の視点で書かれたものですが、客観的な記録としてとても意義があるものだと思います。
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震災前では教会の規模が小さく、地域に対してあまり影響力もないように思えた教会が、震災後に大きな影響を及ぼす祝福の拠点となった事実を見るときに、この記録を通して、日本中の教会が、エペソ1章の最後に記されているように、地域教会に委ねられている無限の力を知ることになるよう祈ります。
本書の中で「豪雪によって道路が凍って運転するには危険な状況だとします。車を雪道用タイヤに交換するなど対策を講じなかったり、飛ばして走ったりした結果起こった事故は、『災害』ではなく運転していた人の責任です」(一七、一八頁)と書かれています。今年は東京でも大雪が降り、何十台もの車が立ち往生したり、接触事故を起こしたりしましたが、自分たちの身に起こる可能性があるリスクに、どのように備えていくかという知恵がなければ、自分の責任の欠如が問われることになります。本書は、そのような意味において、多くの示唆を与え、個人としての備えだけではなく、地域教会としての備え、さらには同じ地域にある教会のネットワークでの備えなどの視点も与えてくれます。
しかし、そのような実際的な備えだけをしていれば、キリスト者として十分かというと、そうとも思いません。デベッサ牧師に、「今、日本の教会は次の災害に備えて準備をしている」と言うと、とても驚かれました。「どうして災害が起きないように真剣に祈らないのか。もし災害があり、命を失うようなことがあったとしても、その人たちは天国に行ける人であって、日本の民が救われるように祈らないのか」と言われました。その彼の見方を聞いて、天の国籍を持つ者として、祈る視点を教えられた気がします。
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次の災害に備えるといったときに、世の人と同じように四十八時間自分で生き延びることができるように備えておくだけでなく、いつキリストが来られてもいいように、真のキリストの弟子として生きることに尽きると思わされます。そして、今もいのちが与えられ、生かされているのは、主の恵みによって生かされていること、それは使命のために生かされていることであることを真剣に受け止め、今日が最後の日として生きたいと願わされます。
被災地のある牧師はこのように言っておられました。「次の震災に幾ら備えても、主は死ぬときはいのちを取られる。生きるか死ぬかは紙一重だった。それよりも、地上に生かされている宣教という使命に生き続けることこそが、真のキリスト者としての備えなのではないかと思わされる」と。花嫁なる教会が、花婿なるキリストを待ち望む生き方そのものだと教えられます。本書を読みながら、あの時の記録を基に知恵を得つつ、次に来る震災に向けて、祈り備えていくものになりたいと願わされます。
『震災ボランティアは何ができるのか』
ジョナサン・ウィルソン著
A5判 1,600 円+税
いのちのことば社