相馬幸恵
ミニチュアクラフト作家

　私は、おいしそうな赤いりんごを見ると買わずにいられなくなります。今は美しい色合いと甘い風味のあるフジが人気のようです。いっとき、昔ながらの酸っぱいりんごが店先から姿を消しかけたことがありました。りんごらしい味がするのになあと残念に思っていたら、最近はケーキを作る人が増えたからでしょうか、紅玉なども容易に手に入るようになりました。

　若いころ、よく信州・安曇野の知人の家に遊びに行きました。小さな村でしたが、大自然に囲まれたさわやかな空気感が何ともいえず心地いいのです。店も何もなく、野菜をそのままかじったり、庭のすももを川で冷やして食べたり……。朝夕の南アルプスの美しさに心打たれるたびに、いつかこんなところで暮らしてみたいなと思ったりしました。

　一番感動したのは、車窓の外に一面に広がる赤いりんご畑が目に飛び込んできた時です。思わず子どものように歓声を上げ、友人に笑われてしまいました。

　季節の中で一番好きなのは、秋。涼やかな虫の音は活動的な夏の終わりを告げ、りんごの香りが懐かしい思い出を運んで、私を創作の世界へと導いてくれるのです。