300号記念特集 本で逢えたら いのちのことば社の出版物を振り返って
いのちのことば社における出版の歴史は1950年に始まる。この年、当時米国での代表的説教者であったオズワルド・スミスの『唯一つの道』を出版。翌51年には、J・ライス『イエスは神か?』、A・B・シンプソン『聖霊による歩み』など翻訳書10点を出版した。52年も翻訳書のみ11点。このように欧米の優れた説教者、神学者による信仰入門書、霊想書を、草創期の戦後日本の教会に提供するのが、私たちの最初の働きであったといえよう。
その後、60年代にかけて、教会の伝道が活発になっていく時代になると、ビリー・グラハム、羽鳥明、尾山令仁といった伝道者、日本人牧師の著書が多くなっていく。また、スポルジョンの『朝ごとに』『夕ごとに』やカウマンの『山頂をめざして』などのデボーショナルな本を出すようになるとともに、信仰良書選と呼ばれる廉価な学びのテキスト、信仰の手引き書も続々と出した。これは、教会に加えられた青年たちの霊的向上、聖書理解の助けになり、諸教会で好評を頂いた。
1970年、「新改訳聖書・旧新約」が完成したことにより、本格的な注解書、講解書の必要が高まり、『新聖書注解』(全7巻)を72年から77年にかけて出版した。続いて、『新聖書講解シリーズ』(全31巻)を出版。それと併行し、批評学的な神学に対する福音派教会の危機感から「聖書信仰」運動が広がっていき、教会の間で、いのちのことば社の出版に対する期待と需要が増していった。
80年代は総じて教会の教勢が大きく伸びていく背景にあって、クリスチャンたちに、最も本が読まれ、本が伝道に利用された時代であった。いのちのことば社からも、信徒向けの実用書、伝道書(プレゼント本)、証しの本を相次いで出版した。『ありがとう純子』『銀色のあしあと』『大地の讃美』などがそれらの代表格といえる。同時に、心を病む人々が多くなり、教会においても心の問題をどう扱うかは大きな課題になっていき、柏木哲夫、工藤信夫などの精神科医・カウンセラーの著書が求められた。さらに、80年代末から90年代にかけて、牧師・信徒の更なる聖書理解の求めに答えるために、『新聖書辞典』『新聖書語句辞典』『新キリスト教辞典』などの大型企画を出版していった。
21世紀に入った現在、キリスト教出版における将来の見通しは容易ではない。戦後の半世紀、教会とともに成長し、教会に支えられてきた私たちであるが、その教会が停滞に陥り、インターネットの急速な浸透によって情報入手の方法が大きく変化している今、私たちがどのような形で教会の働きに寄与していけばよいのか、深く切実な課題である。
そうした中で近年、クリスチャンと世の中との関係、社会生活上の問題に応えるために、「平和」「天皇制」「心の傷」「不登校(教育)」といった今日焦点となっているテーマに、キリスト教の視点から取り組む本を手がけるようになった。また、『たいせつなきみ』をはじめとする聖書的メッセージの入った創作絵本が、一般マーケットを通して広まっていくようになった。
主は、「全世界に出て行き、すべての造られた者に、福音を宣べ伝えなさい」(マルコ16・15)と弟子たちに命じておられる。私たちは、教会を対象とした働きのみにとどまらず、「出て行って」、日本人の99%を占める「すべての造られた者」に福音を伝えることにも力を注ぎたいと願っている。