CD Review ◆ CD評 『きみは愛されるため生まれた』
西由起子
声楽家
日韓の架け橋・チャヌ氏の賛美集
ヴァイオリンは人の声に似ていると言われる。「イムジン河」が流れる。その瞬間、ジョン・チャヌさんの魂の叫びが聞こえてくるような気がした。時にすすり泣くように、時に訴えるように…。在日韓国人二世として生まれ、アイデンティティを求めて韓国に二十年住み、現在は再び日本で日韓の架け橋として活躍中のチャヌさん。新大久保駅でホームから線路に落ちた男性を助けるため命を落とした日本と韓国の男性に感動して駅前で行ったコンサートが私たちの記憶に新しいが、チャヌさんはこの頃もう一つの「自分の命を捨てる愛」キリストの愛に出会っていたという。チャヌさんが演奏、否、賛美するのはこのCDの表題である「神様に愛されているために自分は生まれたのだ」という確信なのだと思う。
イエスの名前を戴くヴァイオリン、名器「イエスのグァルネリ」で奏でる艶やかでどこまでも美しい音色。チャヌさんの音楽はその留学先、フランスの香りがする。ドイツ音楽のように一つの音に哲学的な意味合いすら持たせる重々しい音楽とは違い、美しい風景の中で目を閉じるとそこにそよ風が吹いてくるように軽やかに耳に入って来るのである。それは大変なテクニックの持ち主であることをひけらかさない演奏姿勢にもよるのであろう。ピアノの武田香奈子さんのサポートも好感が持てる。
収録曲はクラシックの名曲としても知られる「愛の挨拶」「主よ、人の望みの喜びよ」で始まり、讃美歌・聖歌の名曲が並ぶ。新しいプレイズも含めてクラシカルで上品なアレンジとなっている。表題曲の「きみは愛されるため生まれた」は韓国で大ヒット中の賛美。この曲を含め何曲かの歌詞が添付されているので、チャヌさんのヴァイオリンと共に口ずさむ贅沢も得られる。
9月にサントリーホール大ホールで開催されたコンサートも超満員。クリスチャンになる前は出番を待つ舞台袖で感じていた「恐れ」も今は消えたという。実際、ステージ上のチャヌさんはリラックスして楽しそうに見えた。