CD Review ◆ CD評 『Prayer Songs』

CD Prayer Songs
向日 かおり
クリスチャン・ミュージック・アーティスト

祈りと音とが一つになる ――スピリチュアルなピアノの祈り

 プレイヤーのボタンを押す。すると今までの情景が一瞬にして変わる。文字通り空気が変わる。音楽にそのような力を求めるとしたら、これこそ、そんなCDだ。繊細なピアノの音が流れ出し、その空間で心は解放され、弛緩し、ほどけていく。そこには聖い神の臨在がある。このアルバムがなぜそのような力を持っているのか。それはユニークな録音方法と、演奏者や制作者のスピリットによるだろう。

 ピアノプレイヤーであり、卓越したミュージシャンであるジェフ・ネルソンは、ある日何も持たずにスタジオに来るように言われたという。ジェフの前に立っていたのは二十人ほどの共演者たち。彼らは音楽家ではなく、祈りの共演者たちだったのだ。テーマ聖句を一つずつあげ、心を合わせて彼らがささげる祈りを、ジェフが別室でヘッドフォンを通して聴く。そうして、その祈りに心を合わせながらピアノによる「祈り」を奏でていくのだ。音楽は祈り手に呼び覚まされ、祈り手は音楽に揺り動かされる。美しいその時間をそのまま収めたものが、このアルバムなのである。

 内容はきわめてシンプルな音使いで、即興的なその空間をジェフは派手なパッセージで埋めることはしない。それは彼が周りのアーティストから「神様のしもべ」と形容される、その人格と信仰のもたらすところだろう。「執事は主人や客に仕えながら決して自ら口を開くことはない。」彼は賛美者としての姿勢をそう語る。聴く者はジェフを聴くのではなく、神様に聴くのだ。その音が流れ出すとき、やさしさが波のようにせまる。心が満たされていくのはそのためだ。純粋な礼拝者に対し、神様は何と素晴らしいギフトを伴い、現れてくださるのか。

 心を静め、神様との深い交わりに入るために、これは特別な一枚になるだろう。心の中にある深いうめきに、音は訪れ、聖なる霊は祈りをとりなし、聴き手を解放してくれる。音が流れ出すその空間は、聖い祈りの空間に変わる。恵みに満ちた神様との祝福された時間が、そこに訪れるにちがいない。