CD Review ◆ CD評 悲しみの中を歩き始めた僕らへのプレゼント

『CD 北上夜曲 』
塩谷達也
ゴスペルシンガー

 “自分にとっての大切なものを詰め込んだアルバムをこの年に作りたい……”
岩渕まことさんによるライナーノーツには、そう書いてあります。
僕は個人的に、まことさんと「塩渕」という男二人のユニットで歌わせてもらっていて、まことさんの歌からそこはかとなく浮かび上がってくる温かい何かが好きで、いつもジーンとさせられていました。そして、このアルバムをじっくり聴きながら、またそのジーンの心でいっぱいになってしまいました。
三十五年の音楽人生で生まれてきた語り口、かけがえのない音楽仲間と紡がれていく世界、震災のなかであふれてきたふるさとへの思い、そして、まさしく『君がいて僕がいる』で歌われているような由美子さんとの絆。その一つひとつが、軽やかなアレンジの中に溶け込んで僕らの耳へと届けられます。
歌に励まされる、そのあり方もそれぞれだと思いますが、お二人の歌を聴いていると、そっと立って見ていてくれるような、静かに心が温かくなるような、そんな気がします。そして、それは神さまの優しさ、愛なんじゃないかなあと思うのです。そっと咲いている花のような力強さ、いのちの力が押し寄せてくるような、そんな不思議な感覚が、まことさんと由美子さんの歌にはあるような気がします。
震災の翌日から、まことさんの頭の中に「北上夜曲」が鳴り始めたと言います。傷ついた故郷を想いながら、僕は生きるぞ、生きるんだ、と自分自身に言い聞かせるような心に涙こぼれます。
このアルバムでは、ひまわりのような由美子さんの歌声がじっくり聴けたこともうれしいですね。しっとりとした明るさをたたえた由美子さんの歌声がまことさんをそっと照らしているようです。
“悲しみの中を歩き始めた”僕ら一人ひとりにとっての心からのプレゼント。そんな素敵な作品です。