CD Review ◆ CD評 CD「とっておきの賛美歌」

CD「とっておきの賛美歌」西由起子
小堀英郎
ピアニスト

いつも口ずさんでいる賛美歌なのに

 話題になったDVD「とっておきの賛美歌物語」に収録されている「輝く日を仰ぐとき」や「いつくしみ深き」など、五曲の賛美歌を声楽家の西由起子さんが歌う。

 どれも馴染みある賛美歌であるのに、一度耳にするとこれまでとは違う別世界に引き込まれてゆく。そしてそれは「癒し」とか「落ち着く」という言葉だけで表すことは出来ない。

 一曲目の「やすけさは川のごとく」は、財産を焼き尽くされ、また旅の途中の子供たちを失うという、かつての幸せの絶頂から想像を絶する悲しみの底へ転落した中で書かれた詩である。しかし、それは自分を慰めるためではなかった。神をほめたたえ、神のなさる業に希望を置く作者の告白が歌詞の一語一語にこめられている。

 他の四曲についても、その背景を知ることによって、よりリアルにその賛美歌と出会うことになる。

 西由起子さんの優しく包み込んでくれる歌声は常に安定感があり、ピアノやヴァイオリンとのアンサンブルが「涙色の光」のように美しく調和する。

 そしてそのハーモニーは、賛美歌本来の素朴さをかき消すことなく、永遠の希望をもたらす生ける神の祝福を伝えてくれている。

 このアルバムを聴きながら、以下のみことばを思い出す。

 「どうか父が、その栄光の豊かさに従い、御霊により、力をもって、あなたがたの内なる人を強くしてくださいますように。……すべての聖徒とともに、その広さ、長さ、高さ、深さがどれほどであるかを理解する力を持つようになり、人知をはるかに越えたキリストの愛を知ることができますように。こうして、神のご自身の満ち満ちたさまにまで、あなたがたが満たされますように」(エペソ三・一六、一七・二一)。

 最近、「音楽鑑賞」という言葉がめっきり少なくなったようである。他の用事をしながら単に「聞き流す」のではなく、「聴き入る」「じっくり向き合う」ということによって、その賛美歌に秘められたメッセージを味わうことが出来るはずだ。