DVD 試写室◆ DVD評 壮大なスケールのラブストーリー
「旧約聖書 エステル記 プリンセス・オブ・ペルシャ」

「DVD 旧約聖書 エステル記」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師

今回ご紹介するのは、「旧約聖書 エステル記 プリンセス・オブ・ペルシャ」。
とにかく、その壮大なスケールと完成度に度肝を抜かれた。さすが製作費50億円! この作品が、日本で劇場公開されなかったのは、かえすがえすも残念である。
最初にお断りしておきたいのは、この作品が聖書を忠実に再現することを目的としたものではないということだ。ドラマチックにするための脚色も加えられているし、聖書の記述とは異なる部分もある。
しかし、特筆すべきは、しっかりと信仰が描きこまれているという点である。
旧約聖書の「エステル記」自体には、神についての記述が一つもない。著者は、あえて神について触れず、すべての出来事の裏に働く神の御手を読者に読み取らせようとしたのだろう。しかしこの作品では、登場人物であるエステルに、モルデカイに、自らの信仰を生き生きと語らせている。
キーワードは「物語」だ。
エステルは、ことあるごとに旧約聖書の物語を引き合いに出す。エステルにとって、それらは大昔の話ではない。神と人との物語の中に彼女自身が生きているのだ。
また、創世記のヤコブ物語はエステルとアハシュエロス王との関係に重要な役割を果たし、ラストシーンまで絡んでくる。ここらへんの脚本は実に見事だ。
そして、この作品のもうひとつの柱は、エステルとアハシュエロス王とのラブストーリーだ。初対面の緊張、惹かれあう心、燃え上がる熱情、結婚、そしてお互いの誤解によるすれ違い、ギクシャクした重たい空気、愛を阻む掟……。まさに王道である。
登場人物はそれぞれ個性的かつ魅力的であるが、個人的には宦官のヘガイがよかった。聖書では、お妃候補の監督役として、チラリと登場する端役にすぎない。しかし、本作品では重要な役割を果たしているのだ。
本作品のヘガイは宦官のイメージとは程遠い。スキンヘッド。顔には大きな刀傷。プロレスラーのような巨体。その声は、地の底から響くような重低音。
無愛想で厳しいヘガイが、エステルと触れ合ううちに少しずつ心を開いていく。恐ろしい外見の下に、宦官として生きる悲しみを抱くヘガイと、ユダヤ人としての出自を隠す悲しみを抱くエステルの心が共鳴していくさまは感動的だ。