DVD 試写室◆ DVD評 神の愛に生きた彼女にも、苦悩と葛藤があった!!
「マザー・テレサ -愛 苦しみ 祈り-」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師
「私が神について話す時、人々が喜びと勇気を得ることを知っています。しかし、私にはそれが得られないのです。心にあるのは、闇と、神から切り離されたのではないかという思いです」
これが、マザー・テレサから発せられたことばだと知ったら、驚く方も多いだろう。
インドのコルカタで、貧しい者、病に倒れた者、打ち捨てられた者たちに寄り添い、仕えたマザー・テレサ。その愛と、わが身を削る献身は、世界中の人に感動を与えた。
その活動が認められ、1979年、ノーベル平和賞を受賞。そして、1997年、87歳で天に召されていった。
しかし、2001年、衝撃的な事実が明らかにされる。マザーが、生前、霊的指導者たちに送った手紙が公開されたのだ。そこには、彼女が内側に抱えていた心の闇が、赤裸々に綴られていた。
今回、ご紹介するDVD「マザー・テレサ ―愛 苦しみ 祈り―」は、マザーが抱えていた心の闇に迫るドキュメンタリーだ。
本作品の縦軸は、当時の貴重な映像や、働きを共にした人たちの証言によって綴られた、半世紀にわたるマザーの活動である。貧しい生活をし、献身的に奉仕し、若いシスターたちを教育し、世界中で神の愛を説く。これが、私たちの知っているマザー・テレサだ。
しかし、それらの映像に、彼女が手紙や日記に記したことばが、ナレーションによって重ねられていく。それは、私たちが考えてもみなかったマザーの内面。冒頭に引用したような、応えてくださらない神への疑い、孤独、苦しみ、煩悶であった。
次々に明かされていくこれらの苦悩を聞きつつ、献身的に奉仕するマザーを映像で観るのは辛いものがある。改めて思う。マザーの身体の、いかに華奢なことか。その顔に刻まれた皺の、いかに深いことか。
マザーの霊的指導者の一人である、イエズス会のヒュアート神父は、彼女から心の闇について打ち明けられたときに、大きなショックを受けたという。しかし、このように証言している。「何が人を自己犠牲的で、喜びに満ちたものにするのか? それは、神との対話だ。対話が光の中か、闇の中かは問題ではない」
このDVDが明かすマザーの内面は、多くの人に衝撃を与えるだろう。しかし、彼女は、苦しみながらも、最後まで神に問い続け、神から離れることがなかった。これが、マザー真実の姿なのである。