DVD 試写室◆ DVD評 117 名曲にドラマあり!
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師
このDVD「とっておきの賛美歌物語」は、だれもが知っている5曲を取り上げ、その誕生のドラマを物語る。最初に紹介されているのは、ホレイシオ・スパフォードのストーリー。彼は、莫大な財産を持つシカゴの名士であり、だれからも尊敬される熱心なクリスチャンであった。しかし、そんな彼を、理不尽な苦難が次々と襲うのだ。息子の病死。シカゴ大火災による財産の喪失。スパフォードは、現代のヨブである。
苦難はこれで終わらなかった。1873年、一足先に英国に向かった妻アンナから一通の電報が届く。そこには、たったひとこと。“Saved Alone”(一人だけ生き残りました)妻と娘たちを乗せた船が海難事故で沈没。アンナは奇跡的に救助されたが、4人の娘は、冷たい海に呑み込まれてしまったのである。
絶望に打ちひしがれながらも、妻を迎えに旅立ったスパフォード。出航から4日目、船長から告げられるのだ。「ちょうど、この場所であの船が沈んだのです」。このときの彼の悲しみ、苦しみは、想像に難くない。しかし、その苦難の中で、スパフォードは神の約束の光を見る。それは、「娘たちとは、やがて天国で再会することができる!」という希望だった。船室に駆け降りた彼は、心の思いを一気に書き上げる。
こうして、不朽の名作「やすけさは川のごとく」が誕生したのである。
DVDを通して、この感動のドラマに出会った方は、今後、この歌を歌うたびに、スパフォードがこもった薄暗い船室の揺れを体に感じることだろう。そして、「たとえ、何を失おうとも、私は神を信じよう」という、彼の信仰を思うだろう。
他にも5曲、「きよしこの夜」「輝く日を仰ぐとき」「いつくしみ深き」「アメイジンググレイス」の誕生のドラマを紹介している。どれも、美しく、そしてまた、悲しい物語である。
そして、ぞれぞれの物語の再現は見事! 過度の演出がないのがよい。ゆかりの地の映像、当時の資料やフィルム、研究者の証言などを効果的に用いながら、淡々と物語る。しかし、それゆえに、観る者の心に迫るのだ。
讃美歌、聖歌がお好きな方はもちろん、ゴスペル派、ワーシップ派にもお薦め!賛美の本質について教えてくれるDVDだ。
*天に帰られた古川第一郎先生に代わり、今回から大橋由亨先生が、このコーナーを担当してくださいます。ご期待ください。