DVD 試写室◆ DVD評 121 「ローマ帝国に挑んだ男―パウロ―」(前編)
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師
傍観者から迫害者へ。そして、劇的な回心……パウロの生涯
2回にわたって、『ローマ帝国に挑んだ男-パウロ-』をご紹介したい。今回は前編。迫害者サウロ(後のパウロ)が、回心するまでのストーリーである。この作品のサウロは、初めからの迫害者としては描かれていない。イエスがメシヤであり、生き返ったというクリスチャンの主張に眉をひそめながらも、師であるガマリエルの「静観せよ」という教えに従っていた。
そんな彼が、なぜ過激な迫害者になったのか? この物語では、サウロの親友ルベンという人物を登場させ、その経緯を描く。
ルベンはクリスチャンを徹底的に異端視し、なんとかして撲滅しなければならないと考えていた。そして、親友サウロに迫るのだ。「神を愛するか? イスラエルを愛するか? それなら、やつらを殺せ!」ガマリエルの教えと、ルベンとの友情の間で逡巡するサウロ。しかし、彼はルベンの腕をがっちりと握る。「イスラエルのために!」と、キリスト教撲滅を誓い合うのだ。
友との誓いを果たすためにクリスチャンを逮捕していったサウロだが、そのうちに顔つきが変わっていく。その迫害ぶりは、ルベンにひけをとらないほどにエスカレートしていったのだ。そして、ついには、逃げようとしたクリスチャンを刺し殺してしまう。
ルベンの婚約者であり、イエスに心を開きつつあったディナは、サウロに問う。「もし、あなたが間違っていたらどうするの?」すると、サウロは自分の右手を彼女に突き出して答えるのだ。「私は、この手を血で染めたのだ! もう、後戻りはできない!」
そんなサウロの人生に、イエスが介入する。まばゆい光になぎ倒され、イエスの声を聞いたのだ。真実を知らされたパウロの驚愕。そして狂乱。視力を失って白濁したまなこを見開き、声にならない叫びを上げる。
しかし、アナニヤによって目を癒されたサウロは、まるで憑き物が落ちたように表情が変わった。そして、「バプテスマを」と願うのだ。このバプテスマのシーンは、光を背にしたシルエットで美しく描かれている。厳かなバプテスマの後に、クリスチャンと迫害者の2つの影が、しっかりと抱き合うのだ。ここから、サウロの伝道者としての歩みが始まる。
物語としての面白さはもちろんであるが、サドカイ派とパリサイ派との対立、ローマ帝国からの圧力など、当時の時代背景がよくわかる作品だ。「使徒の働き」を立体的に理解するためにも、お勧めである!