DVD 試写室◆ DVD評 127 「パペットアニメ聖書物語」 Part3
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師
最も美しい物語を見事に再現!―「ルツ物語」
今号も、DVD「パペットアニメ聖書物語」のご紹介。5月号、6月号では、このDVDに収録されている3話のうちから、「アブラハム物語」「ヨセフ物語」を紹介してきた。今回の主人公は女性。「ルツ物語」である。前2作は、長いストーリーを25分にまとめるための、編集上の苦労がうかがえた。しかし、ルツ記は、もともと4章しかない短編。聖書の記述を、そのまま丹念に再現してちょうど25分! ルツ記全体を、まんべんなく味わうことができる。 まず驚かされたのは、ナオミの表情の見事さだ。よくぞここまで、粘土で作りこんだものである。
穏やかな微笑みをたたえていたナオミの顔は、夫エリメレクの死、2人の息子の死という悲劇の波状攻撃を受けて歪む。そして、ほどなく、その顔は怒りにこわばり、苦々しげに吐き捨てるのだ。「神さまなんて、情け容赦もない! 私は、不幸のどん底に突き落とされたんだよ!」。
そんなナオミに献身的に仕えたのが、亡き息子の嫁、モアブ人のルツである。
落ち穂拾いに行くことを告げるシーンは感動的だ。「刈り入れ時は、男がたくさんいて危ないよ」と言って止めるナオミに、普段は従順なルツが、一歩も引かない。「まったく! 娘は母親の言いつけに従うものだよ」とあきれるナオミに、ルツは「娘は、母親のために働くものでしょ」と切り返すのだ。
とうとう根負けしたナオミは、ルツを抱き寄せて、「主がお守りくださいますように」と祈るのだ。「聖書の中で最も美しい物語」と呼ばれるルツ記を、命を持たない粘土が見事に再現しているシーンである。
ルツ自身も、夫を亡くした悲しみの中にいた。しかも、故郷を離れた異邦人というつらい立場だ。しかし、そんな中にあっても、ルツはナオミに仕え、彼女を心から愛するのだ。
このルツがいたからこそ、ナオミは悲しみに押しつぶされなかった。怒りに完全に支配されることがなかったのだ。
このDVD、もう一つ、特筆に値することがある。それは、この作品が、当時の風俗習慣を多く再現して見せているということだ。結婚式、埋葬、麦の刈り取り、落ち穂拾い、打ち場での宴会、町の門において行われた、証人を立てての交渉など。
21世紀の日本に生きる私たちに、聖書の世界をぐっと引き寄せてくれる作品である。