DVD 試写室◆ DVD評 130 「三浦綾子の足跡」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師
三浦綾子との出会い
私が、生まれて初めてクリスチャンという人種に出会ったのは19歳の時。ひょんなことから聖書研究会に入会し、クリスチャンたちと聖書を学ぶようになったのだ。思えば、当時の私は、ずいぶん失礼なやつだったと思う。初めて読む聖書に反発し、先輩に食ってかかることもあった。しかし、クリスチャンたちは、そんな私に忍耐強く接してくれた。なんだかんだ言いながらも、私が聖書研究会から離れなかったのは、彼らの人柄に魅かれていたからだろう。
そんなある日のこと、私は、古本屋で一冊の文庫本を見つけた。先輩が絶賛していた本だ。大して期待もせずに購入し、その晩、布団に寝転がって読み始めた。
結局、その夜は眠れなかった。たちまちのうちに引き込まれ、読み終えたときには、白々と夜が明けていたのだ。あの朝のことは、30年近く経った今でも、鮮明に覚えている。感動などという、ありきたりのことばでは言い尽くせない。19歳の私の魂は、まさに衝撃を受けたのだ。
その作品こそ、三浦綾子氏の「道ありき」である。以来、私は、「塩狩峠」「氷点」「海嶺」と、むさぼるように三浦作品を読み始める。
さて、今回ご紹介するのは、「三浦綾子の足跡」。没後10年を記念して、既刊ビデオ、「むなしさの果てに」「三浦綾子夫妻講演会」「祈りと執筆の日々」の3本を、ひとつにまとめたDVDだ。
最初に収録されている「むなしさの果てに」は、私が初めて接した三浦作品「道ありき」の映像版と言えるだろう。旭川の風景、ゆかりの場所、当時の写真や古い記録映像など、豊富な資料を織り交ぜながら、三浦氏の人生をたどっていく。
綾子氏、光世氏のインタビューと、口述筆記での執筆風景が収録されているのがうれしい。
この「むなしさの果てに」は、虚無の中から神を見出した綾子氏と、それを間近に見、支えてきた光世氏から、苦難の中にいる人たちへのメッセージで幕を閉じる。二十数年前に語られたものであるが、今のこの暗い時代に生きる人々にこそ必要なメッセージであることに驚いた。
このDVDを観た後、私は、本棚から「道ありき」を取り出してきた。久しぶりに、読み返してみようと思う。