DVD 試写室◆ DVD評 131 「三浦綾子の足跡」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師
肉声で語られた『道ありき』―― 22年前の綾子氏と出会う
私は、かつて一度だけ、旭川の三浦綾子記念館を訪れたことがある。1999年6月のことだ。館内を一渡り見学した後、見本林を散策した。6月の北海道だというのに、30度を超えるような暑さ。しかし、林の中は涼しく、心地よい。しばらく歩くと、突然、目の前に美瑛川が広がった。私は思わず息をのんだ。太陽にきらめく川面の上を、無数の綿毛がゆったりと漂っていたのだ。散歩に来ていた地元の人に尋ねると、どろの樹の綿毛だと教えてくれた。
この年の10月に三浦綾子氏は亡くなったのだ。以来、私は三浦氏の名を聞くたびに、あの幻想的な光景を思い出す。
そして、この夏、三浦綾子氏の没後10年を記念して、DVD「三浦綾子の足跡」が発売された。これは、3本の既刊ビデオをひとつにまとめたものである。前回に引き続き、このDVDをご紹介したい。
収録されている3本の内の一つ、「三浦綾子夫妻講演会―愛すること 信じること―」では、黒々とした髪の、元気な綾子氏に出会うことができる。1987年5月23日の講演会だから、当時、綾子氏は65歳。
「人間は、何を愛し、何を信じるか、少しでも考えるヒントになればと思い、お話しいたします」。こう口火を切った綾子氏は、7年間の教員生活から語り始める。
この時代のことは、時間の制約がある講演よりも、自伝小説「道ありき」に詳しい。しかし、映像の利点もある。綾子氏の口調、表情から、いかに子どもたちを愛していたか、いかに教育に情熱を傾けていたかが、ひしひしと伝わってくるのだ。壇上で語る65歳の綾子氏がシュルシュルと巻き戻されて、若き熱血教師・堀田綾子の姿が見えてくる。
自身の病気に関しても、淡々と語る。肺病による13年の闘病生活。顔中が醜くただれ、激痛に苦しめられたヘルペス。直腸癌。そして再発。
しかし綾子氏は、「神さまは、これらの病を与えてくださった。これは、本当にありがたいことです。私は、神さまにえこひいきされているんじゃないかと思います」と言う。気負いなく、淡々と語る綾子氏に、信仰者としての凄みさえ感じるだろう。
綾子氏は、神と共に生きる人生が、いかに素晴らしいかを語って講演を閉じた。それは、22年前に青山学院大学の講堂を埋め尽くした聴衆に対する、そして、このDVDを観る私たちへの、神への招きである。