DVD 試写室◆ DVD評 133 水野源三の生涯を描く「瞬きの詩人」
大橋由享
友愛グループ イエス・キリスト ファミリー教会牧師
源三さんの素敵な笑顔に出会う
私の頭の中の水野源三さんは、炬燵のへりにちょこんと顎を載せ、フクロウのような大きな目でこちらをじっと見ている、そんな姿だった。何かの本で見た写真からのイメージであろう。ところが、実際の源三さんの姿を映像で見て驚かされた。なんと素敵な顔で笑うことだろうか! なんと表情豊かなことだろうか! 四肢麻痺で、瞬きしかできないと聞いていたため、失礼ながら、私は、あの写真で見たのが、源三さんの唯一の表情なのだと思い込んでいたのだ。
DVD「瞬きの詩人」は、詩人・水野源三さんの生涯をドラマ化した作品である。その内容については、前回ご紹介した。
そして、このDVDには、ドラマの他に、ドキュメンタリー「生きる-悲しみよありがとう」が特典映像として収録されている。
このドキュメンタリーでは、彼が「瞬きの詩人」と呼ばれる所以となった、独特の創作風景も見ることができる。
義妹の秋子さんが、50音表を読み上げていくのを(想像していたよりも、かなりスピードが速い!)、源三さんは、炬燵のヘリに顎を載せ、真ん丸な目で見上げている。そして、該当の行、該当の文字のところで、瞬きをして合図を送るのだ。秋子さんは、その合図を見逃さず、彼の思い描いていることばを的確に拾っていく。熟練のチームプレイだ。
そして、ひとつの作品が仕上がると同時に、今まで真剣そのものだった源三さんの表情から力が抜ける。真ん丸に見開いていた目が緩み、笑顔に溶けて目じりが下がる。まるで別人のような表情だ。
考えてみれば、彼の創作は真剣勝負だ。なぜなら、私たちが詩や俳句を作る時には、書いては消し、書いては消しと推敲を重ねるが、源三さんの場合、書き直しの手だてがないからだ。おそらく、ほとんどの作品が一発勝負、ワンテイクなのではなかろうか。
彼の内側は、こんこんと湧く泉のようなのだろう。後から後から湧きあがる作品を、彼は心の中で何回も反芻し、玉のように磨き上げているのではないか。そして、それが瞬きによって発信されるときには、もう完成された作品に仕上がっている。創作風景を見て、そんな印象を受けた。
ちなみに、このドキュメンタリーのナビゲーターは三浦綾子さん。ナレーターは女優の長岡輝子さん。おふたりの心が、源三さんの詩と、その生き方に深く心を揺さぶられている様子が、画面から伝わってくる。