flower note 10 無駄のない美


おちあい まちこ

「秋桜」と書いてコスモスと読みます。詩的な美しい響きになぜか違和感があり、ワケがあるような気がして調べました。
さだまさしが作詞・作曲し、山口百恵が歌った曲「秋桜」(1977年)を覚えておられる方もあるでしょう。「秋桜」は、もともとは和名どおりの「あきざくら」がタイトルでしたが、曲がヒットしたことにより「コスモス」に変更し、それまでなかったコスモスという読み方が広まったのだそうです。中学生だった私はこの歌をすぐ覚えて口ずさんでいましたが、嫁ぐ娘が母を想うという内容であることに随分後になって気がつきました。何十年も経った今も、コスモスの前に立つとこの曲が自然に頭の中を巡ります。当時聞いた歌とそのとき頭の中に浮かんだ映像(想像)とがくっついたまま、今に至っているような気がしています。不思議なもので、花と接していると、香りをかいだだけで遠い昔のことが蘇ってくることもあり、五感と記憶とが複雑に結びついていることをたびたび感じます。秋の季語でもあるコスモスは、秋の花の代表でいかにも日本的ですが、生まれはメキシコ、キク科の一年草です。‘cosmos’はギリシャ語で「秩序」「調和」を意味する‘kosmos’に由来します。宇宙の意味もあります。ピタゴラスは、宇宙を指すのに‘kosmos’ということばを最初に用いた哲学者といわれています。またキリスト教では、神が創造された宇宙を意味することばです。花をよく見ると、しべのある中心から外へと向かう花びらがきちんと並び、数的な美しさの中に秩序を感じます。植物には一定の規則が存在し、その中に無駄のない美があるのです。
昭和記念公園のコスモスの丘(およそ400万本)には、毎年数回出かけます。青空へ続くように天へと向かう、たくさんのコスモスを見ていると、今立っている場所が‘cosmos’、宇宙の一部であり、調和の中の無限の美しさを感じることができます。
創造主を新たに思い起こさせるコスモスの語源。響きもすてきな名前です。もちろん和名のアキザクラも、歌の「秋桜」も。

~今月の植物~
  コスモス
熱帯アメリカ原産。メキシコからスペインに渡りマドリードの植物園に送られ、コスモスと名づけられた。日本には明治20年頃に渡来したといわれる。秋の季語としても用いられる。