flower note 2 空を舞う蝶のように
おちあい まちこ
一年で最も寒いこの季節、皆さんのお宅の中にもこの花があるのではないでしょうか。地中海地方からやってきたシクラメン。
二つの和名があります。一つはブタノマンジュウ。英名の sow bread (雌豚のパン)を訳したもので、シクラメンの球根が豚の餌になることから命名されました。もう一つの和名はカガリビバナ。ある女性が「これはかがり火のような花ですね」と語ったことから牧野富太郎氏が名づけました。優しい花姿にぴったりで美しい響きのある名前です。英名から訳された和名の中には面白いものや、なるほどと思うもの、詩的だなと感じるものもあります。また異名も多く、地方によって、また時代によって呼び方が違い、人々の生活の中に生きている植物であることが分かります。
写真は原種シクラメン(ヘデリフォリウム) です。ベランダで育てています。昨年は7月に2輪が仲良く開花し、それっきりだったので心配になりましたが、秋になって少しずつ花芽が出てきました。7月の厳しい暑さで勘違いして咲いたのかと思い、調べてみると、原種シクラメンには冬から秋にかけて咲くもの、夏から秋にかけて咲くもの、秋から冬に咲くものの3種類があることが分かりました。勘違いはこちらのほうでした。
シクラメンの語源はギリシャ語のキクロスから来ているそうです。キクロスは「旋回」「らせん」の意味です。花後は茎がくるくると丸まります(写真左)。いつもかわいいなあと眺めていたこのくるくるが語源の由来だったのです。この後、くるくるの先端が丸く太り始め、ボールのようになり、果実ができます。実が裂けてすぐに種を採って蒔けば、1、2年ほどで花が見られるとのこと。昨年は実ができなかったので、今年はトライしてみたいと思います。
わが家のシクラメンは、肥料を与えることもなくベランダで一年中ほったらかしにしていますが、時期が来ると静かに芽を出し、ゆっくりと時間をかけて優しい花を咲かせます。かがり火というより、ひらひらと空を舞う蝶のように見えます。
~今月の植物~
シクラメン
シクラメンはもともと地中海沿岸、トルコからイスラエルにかけて原種が自生している。冬の花として有名。サクラソウ科シクラメン属に属する多年草。