flower note 8 美しいピンクの花
おちあい まちこ
暑さが厳しい季節、一番の楽しみはハスです。朝5時頃自転車で出かけます。朝の風は清らかで冷たく、下り坂をぐんぐん行くときの心地よさは、熱帯夜だったことを忘れるほどです。鶴見川の上流、小さな川に架かった小さな橋を渡ると、一面に大賀ハスの畑が現れます。大きな葉が風に揺れてカサカサと擦れ合う音、元気な蝉の声も聞こえます。葉の間からつぼみが伸び、緑の葉の上を泳ぐようにピンクの花が浮かび上がり、別世界に入り込んだように感じます。大賀一郎博士が、1951年千葉県の検見川で泥炭層を6メートル堀り進め発掘した2000年前のハスです。僅か3粒の種から美しいピンクの花が咲きました。
ハーブを勉強していた頃、1年の学びの最後に研究発表会と称して好きなハーブを10分間で語るという機会を与えられました。私は迷わず大賀ハスを選びました。ハスは食べて美味しい、葉の繊維は織物になるほか、染料やお茶としても楽しめるハーブです。まだネット環境がない時代で詳しいことがわからず、町田市の図書館へ行きました。そこには大賀博士のハスの発掘に関する記録(鴎友学園発行)がありました。手作りのような小さな本を一気に読み、感銘を受けました。ハスの研究には莫大な時間と費用がかかります。博士の生活が困窮していた頃、米がなくなり神様に祈っていると近所の人が持ってきてくださったという記事も後になって読みました。大賀ハスは今では全国に拡がり多くの人々に親しまれていますが、開花までの道のりは長く険しいものだったと、今ではさまざまな情報から当時を知ることができます。
私が通う蓮田は、神社を中心にしてその周りにハスが植えられています。うだるような暑さの中でも、木陰に入り大きな葉の緑とピンクの優しい花を見るとほっとします。平安が与えられ感謝の気持ちが湧いてきます。どんなことも一つひとつ積み重ね祈った大賀博士の信仰が、美しい花となって今ここに咲いていることに新たな感動を覚えるのです。
~今月の植物~
大賀ハス
大賀ハスは、1951年千葉県千葉市検見川にある東京大学検見川厚生農場で発掘された、今から2000年以上前の古代のハスの実から発芽・開花したハス(古代ハス)。