flower note 9 祈りの手のように
おちあい まちこ
~今月の植物~彼岸花
ヒガンバナ(彼岸花)は、ガンバナ科ヒガンバナ属の多年草である。全草有毒な多年生の球根性植物。散形花序で6枚の花弁が放射状につく。
彼岸の頃、間違いなく咲く彼岸花。しかし昨今は暑すぎる夏の影響で発芽が遅れ、開花期が10月にかかる年も増えてきました。私が「植物にも歴史がある」と気づいたのは、園芸家の柳宗民氏の講義で彼岸花の話を伺った時です。それ以来、歴史を知ることで植物により近づけることがわかり、撮影が楽しくなりました。
中国から渡来したこの花は、稲作伝来の時に土に混入した鱗茎によって広まったという説や、球根が海を渡って流れ着いたという説があります。彼岸花は種子がならないので自然状態では移動できず、人が植えることで広がったと考えられます。毒があるので、作物がもぐらなどの動物に荒らされるのを避けるため、田んぼや土手、あるいは墓地(当時は土葬のため)などに植えられましたが、これは供花としての意味もあったようです。江戸の飢饉の時には、鱗茎をすって水にさらし毒抜きをして乾燥させ、だんごにして食べたといわれています。危険を冒してまで食用にしたほど厳しい状況だったのでしょう。いずれにしても、様々な用途があり人々の生活に密着していたからこそ、今私たちはいろいろな場所で、初秋に咲く美しい赤い花を見ることができるのです。
彼岸花は地域によってさまざまな名が付けられ、50以上あるといわれています。雷花、毒花、痺れ花、幽霊花など驚くような名前もたくさんあります。私が好きなのは「曼珠沙華」。梵語で赤い花や天上の花の意味があります。彼岸花は、花が終わった後に葉が出るので、韓国では「相思華」と呼ばれます。花は葉を思い、葉は花を思う…。日本語にも同じような名前を見つけました。「ハミズハナミズ」です。これだけ名前が多いのは、長い歴史の中で多くの人々に親しまれ愛されてきた証なのでしょう。
私が撮影に出かける巾着田(埼玉県日高市)は500万本の彼岸花が植えられ、木々の緑の足元に広がる赤の絨毯は圧巻のひと言です。芽がスーッと立ち上がり緑の袋が裂けて赤いつぼみが見えてくると、まるで祈りの手のように見えます。多くの人々の祈りが、この花を今日のように広めたような気がしてなりません。