恵み・支えの双方向性 最終回 生きる姿勢

柏木哲夫
淀川キリスト教病院
理事長

かしわぎ てつお
1965年、大阪大学医学部卒業。ワシントン大学に留学し、アメリカ精神医学の研修を積む。1972年に帰国し、淀川キリスト教病院に精神神経科を開設。翌年日本で初めてのホスピスプログラムをスタート。1994年日米医学功労賞、1998年朝日社会福祉賞、2004年保健文化賞を受賞。日本メノナイト ブレザレン石橋キリスト教会会員。

四つの姿勢
家庭や職場、そして学校などで人間関係がうまくいかず、「うつ」や神経症気味になる人がいます。外来でその人たちの話を聞くと、原因がその人自身にある場合も少なくありません。では、人間が生きていくうえで、どういう人間関係を築くのがよいのでしょうか。
精神科領域では、「交流分析」という考え方があります。「人間の基本姿勢」についての考え方です。その人の基本姿勢が他の人との交流や関係の色合いを決めるというのです。
一人の人間の生き方をずっと見ていくと、「人は四つのタイプに分かれる」と、心理学者のトーマス・アンソニー・ハリスは提唱しました。これが「生きる基本姿勢」という考え方です。人間関係がうまくいきにくい人は、生涯一貫してとる次の三つの「基本的な構え」をもってしまっている、と彼は主張します。彼の主張に「姿勢のベクトル」を付け加えて人生の基本姿勢について考えてみたいと思います。
①I am OK, You are not OKという基本姿勢
つまり、「私はOKである。他人はOKでない」というタイプで、「自分は良いが、他人は悪い」と思っています。
「私の言うことは正しいし、生き方はこれでいいと思っている。私とあなたがうまくいかないのは、あなたに問題があるからだ」という姿勢です。そういう人は、実はかなり多いのです。自分に向いているベクトルは肯定的ですが、他人に向くベクトルは否定的です。
②I am not OK, You are OKという基本姿勢
つまり、「私はOKでない。他人はOKである」というタイプで、「自分が悪く、他人は悪くない」と思っています。
「私は本当につまらない人間で、あなたの考え方や生き方はそれでいいけれど、それに比べると、私はダメな人間です」といつも自信がない姿勢です。自分に向くベクトルが否定的で、他人に向くベクトルは肯定的です。
③I am not OK, You are not OKという基本姿勢
つまり、「私はOKでない。他人もOKでない」というタイプで、「自分も悪いが、他人も悪い」と思っています。
「私にもいろいろ問題があるが、あなたにも問題がある」と、ある種の「開き直り型」のような姿勢です。「私も良くないし、あなたも良くない」というものです。自分に向くベクトルも、他人に向くベクトルも否定的です。
これらの「基本的な構え」の大部分は、人が幼児期に、親にどのように育てられたか、しつけられたかによって決まるとトーマス・アンソニー・ハリスは言います。育てられ方は、「他人と自分の関係の構え」に強い影響を与えるのです。
「三つ子の魂、百まで」ということわざがあるように、一度ある構えをとると、それは、その人の生涯を通じた立場になりやすいのです。その「構え」に問題があると、他人との関わり、人間関係の中で大きな「ゆがみ」が生じてきます。
「交流分析」で一番推奨されている、良い人間関係を作る「基本的構え」は、どういったものでしょうか。それは、
④I am OK, You are OKという基本姿勢
つまり、「私はOKである。他人もOKである」というタイプで、「自分も良いし、他人も良い」と思っています。
「私は一生懸命生きてきて、まあまあこれで良いのだ」と自己を肯定できることです。と同時に、「あなたはあなたの立場で一生懸命頑張っておられる。あなたの考え方は、私と少し違うかもしれないけれど、あなたはあなたでそれでいい」と他者も肯定できることです。そして「お互いに協力し、生活、仕事などをしていきましょうよ」と思えることです。自分に対するベクトルも他人に対するベクトルも肯定的です。

このように、人間関係には「四つの基本姿勢」があります。
家族の中で、夫婦、親子が、きちんと成熟した関係を保ちながら生きていくためには、I am OK, You are OKという基本姿勢をもって生活していくことができれば、それが一番よいのではないでしょうか。