書評 ザビエルが蒔いた福音の種

『ザビエルと天皇
―豊後のキリシタン歴史秘話』
守部喜雅 著
B6判 1,300円+税
フォレストブックス

カリフォルニア神学大学院日本校 学長
単立 牛込キリスト教会 牧師
佐藤 順

『ザビエルと天皇』という一見、接点がなさそうな両者、その意外性が目を引く。著者は「聖書を読んだサムライたち」シリーズで、日本近代史の英雄にはキリストに従った者がいたことを次々と発表している作家・ジャーナリストの守部喜雅氏であるから、自然と期待は高まる。
第一章の「天皇とキリスト教」の副題に「四百年後に実現したザビエルの思い」とある。宣教師ザビエルは来日後、天皇に日本での布教の許可を得ようとするが、戦乱のため謁見はかなわない。しかし、四百年後の現代、皇室はキリスト教と急接近することとなる。終戦の翌年には、賀川豊彦牧師が宮中で昭和天皇にキリスト教の講義をし、皇居内では、皇族を対象とした聖書研究会が開かれ、時の皇后陛下や、昭和天皇の皇子女たちも、毎週のように聖書を学び、賛美歌を歌っていたというのだ。「私はずっと、クリスチャンは誠実な人柄の持ち主であると考えております。……クリスチャンがわが国の光となることを切に願うものであります。」これは国際基督教大学(ICU)創立総会の折、名誉総裁の高松宮殿下が述べたお言葉で、ここに、皇室のキリスト教に対するイメージが如実に表れている、と著者は言う。第二章は、キリシタン大名の挫折と再生、第三章にはペトロ岐部の生涯が記されており、キリストによる愛と赦しの物語が続く。
イエス様は、「天の御国は、からし種のようなものです。……生長すると、どの野菜よりも大きくなり、空の鳥が来て、その枝に巣を作るほどの木になります」(マタイ13・31―32)と言われた。ザビエルが蒔いた福音の種は、確実に成長しており、日本にも西洋諸国に引けを取らない、キリスト中心の歴史があることを思い知らされる。
この国には、イエス様に倣った性質を持つ人たちが歴史を通して存在し、今も多くいる。また、愛する者の魂の救いのため、祈り、行動したことは、神様が覚えておられ、必ず実を結んでくださる。そんな希望に確信を与える、真の歴史書である。