愛しきことば 第10回 自然にまかせて
カリグラフィーアーティスト 松田 圭子
10月号は、「空の鳥を見なさい。種蒔きもせず、刈り入れもせず、倉に納めることもしません。けれども、あなたがたの天の父がこれを養っていてくださるのです。」聖書のこの箇所を選び、秋らしい鳥の絵にしました。
私のようにフリーで仕事をしていると安定した収入というのがないため、ある程度の覚悟をもってするか、あるいは心を大らかにお金には無頓着でないと不安に押しつぶされて、鬱にもなりかねないかもしれません。
先日も台風で教室を休講にせざるをえないときなどは収入は0であり、自然を相手とする農業を営むかたと同じ立ち位置であるのです。また世間は現在の経済の不安定さから老後の不安を抱える人も多く、絵などを購入するゆとりも人々の気持ちの中から消えてしまっているようです。お金を使わないと経済が回らないという理解は、私を含めて低いように思います。
一昨年、フランスの有名なシャンパンの会社から、おしゃれなお仕事の依頼がありました。シャンパンボトルのガラス面にメッセージや名前をご購入のお客様の前で書くというお仕事を頂いたのです。カリグラフィーの文字をガラス面に書く特殊な技術も加わっての物珍しさもあって、そこそこの注文も頂き、もちろんそれなりの報酬も頂きました。パソコンが世に浸透した今、手書きのよさを感じ取っていただくには、とてもよい企画ではありましたが、イベント性の強いものであまり長くは続かないことも理解していました。いったん増えた収入が減ることが怖くなり、いろいろ余計なことで悩みストレスを抱えることになりました。お金ばかりに目を向けていると、大切な本質的なものを見失ってしまいそうだと気づかされました。この仕事を失ったとしても、振り出しに戻るだけなのです。「なくなったらなくなったときのこと」と覚悟を決めて「今、精いっぱいのことをすること」だと感じます。
実りの多い年は雪深い年であると言うそうです。鳥もお腹いっぱい実を食べて寒い冬を乗りきれるのでしょう。このことばのとおり、安心して自然に任せるのが一番のようですね。