書評 洗礼に含まれる深い意味を平易に簡潔に解説する
『洗礼とは何か』
R・C・スプロール 著
三ツ本武仁 訳
B6判 900円+税
いのちのことば社
日本基督教団 主恩教会 牧師 山崎英穂
三ツ本武仁牧師により平易に訳された『洗礼とは何か』を読み終えた率直な感想は、長く牧師を務めた者として、今更ながら大変よい書に出合えたということです。
内容豊かな本書を詳細に紹介することはできませんが、第一章「洗礼と救い」では、教会史の中での激しい洗礼論争は洗礼が大事な事柄であるからと積極的に指摘します。そこで洗礼自体に救いの効力があるという立場に対して、洗礼は救いの絶対条件ではなく、キリストによって救われるという信仰が重要であると強調します。
それでは洗礼は受けなくてもいいのか。そうではなく、第二章「ヨハネの洗礼とイエスの洗礼」と第三章「契約のしるし」において、洗礼の歴史的背景と根拠について語ります。そこで第四章「洗礼の意味」では、洗礼は恵みのしるし、とくに罪のゆるしとキリストとともなる死と復活のしるしであり、洗礼の執行に当たり、「神がご自身の愛している者たちにイエス・キリストを通して約束しておられることが、まぶしいばかりに展示されているのです」(五四頁)と感動的に語ります。さらに第五章「洗礼の様式」では、初代教会では洗礼の様式には固執せず、礼典の本来の意味が伝えられている限り様式は大した問題ではないと穏当な意見を述べます。最後の第六章「幼児洗礼の弁明」では、幼児洗礼に肯定的立場をとりつつ、「愛に基づく判断を実施し、見解の相違を分裂の原因にしてはなりません」(七八頁)と述べ、建設的な立場が貫かれています。
私は若い日に受洗し、牧師として洗礼式を執行する機会も多く与えられました。洗礼とは何かは私なりに認識していたつもりですが、本書により今まで漠然としていたことが明確にされ、さらに新しい事柄を教えられました。宗教改革者ルターは困難の中で「私は洗礼を受けている」と記し、私の恩師は「私の人生で成功と呼べるものがあるなら、主イエスとの出会いである」と言いました。まさに洗礼は主との具体的な出会いを象徴していると思います。本書では洗礼の中に含まれている深い意味が平易に簡潔に解説されています。求道者も信徒も牧師も一読に値する書です。