書評 私たちの日常と関係性を整え、豊かなケアを広げるために
聖書宣教会 聖書神学舎 教師 赤坂 泉
『よい聴き手になるために―聖書に学ぶ相互ケア』
蔡 香 著
四六判 2,000円+税
いのちのことば社
これほど丁寧に「聴く」というケアを教える和書に出合ったのは初めてです。たましいを真実に愛する著者の人柄がにじみ出ています。蔡香先生は母国日本に宣教師として遣わされ、昨春主のみもとに移された蔡孝全師とともに、OMF(国際福音宣教会)の開拓伝道や「カウンセリング&ケア」の働きを通しての臨床と教育、北海道聖書学院での奉仕など多岐にわたる働きを担ってこられました。
聴き、教え、仕えてきた歩みからの多数の事例も織り込みながら、最初の三章では、ケアを定義して、聖書からケアの輪郭を整え、続く三つの章で、「聴く」ことをそれはそれは丁寧に教えます。最後の一章には、教会の交わりにおける相互ケアの注意点を付記しています。
どの章も誰にでも理解できる平易な表現で展開しますが、特に「聴く」ことにかかわる部分ではカウンセリングの知見がよく咀嚼され、具体化されて提示されており、内容の専門性を読者に感じさせないのは見事です。各章末の「振り返り」のための幾つかの質問が読者の内省を励まし、「実践コーナー」が現実化を助ける構成になっています。
序文に「よい聴き手になることは運転の習得と似ています。……日頃の関わりの中で基本的な原則を繰り返し意識し、祈りをもって行うときに、神ご自身がその努力を用いてくださり、あなたの持ち味を生かしたよい聴き手として育ててくださるでしょう」とあるように、これは知識のためにさっと一読する書ではありません。読者は、人に向かおうとする動機を問われ、むしろまず神と向き合うことを大切にし、みこころを追求することを大切にする姿勢を励まされるでしょう(その意味では「信仰書」のようでもあります)。聴くというケアには、いつも神の臨在を覚え、両者が共に神に聴き、助け合って神に応答しようとする面が不可欠だからです。
本書が日本の教会で広く用いられて、キリスト者の日常を整え、関係性を整えることに資することを期待します。そうして整えられた者たちを通して差し出されるケアが、この時代に主の愛を届けるために用いられますように。