書評Books 悲しい事実の前に、このような本が欲しかった。

『原発と宗教
―未来世代への責任』
富坂キリスト教センター 編A5判 1,800円+税
いのちのことば社
A5判 1,800円+税
いのちのことば社

『原発と宗教』という書名は一見、「堅い本」というイメージです。確かに執筆者はそれぞれの専門的な分野から論旨を進めておられます。しかし、不思議と吸い込まれるように読むことができる本です。その魅力は、大変おこがましいのですが、執筆者の方々の実践に裏打ちされた学問的な深さ、原発問題がもたらす痛みと悲しみへの共感、そして、諸問題に対しての情熱から筆を進めておられるからではないでしょうか。
「はじめに」の部分で執筆者の方々を紹介している点は読む者に大きな助けになります。キリスト教の牧師、僧職で活躍している方、被害実態を地道に調査継続している方、医師として取り組まれている方、鋭く「原子力ムラ」に光を当ててくださった方など実に多彩な方々が筆を進めておられます。加えて、最後にはそれらの方々の座談会が五十二ページを割き写真入りで収録されているのです。真剣な意見交換の現場に居合わせるようで素晴らしいと思いました。
脱原発弁護士として活躍している河合弘之先生が「核や放射能にたいする人の恐怖というのは、宗教においてどう考えるべきなのか、私の関心事ですが、私は宗教にはあまり詳しくないので……」と迫っておられている言葉に胸を刺さされました。
悲しみの日、二〇一一・三・一一。福島を襲った悲惨な原発事故! 故郷福島の悲劇を繰り返してはならない。愛媛県伊方町には三基の原発がある。知識も経験もない私でしたが、それでも原発を止めなければ!と単純に考え「伊方原発をとめる会」の立ち上げに参加、伊方原発運転差止原告共同代表になり、伊方原発の運転差し止め仮処分申請者となり法廷闘争と運動し、「福島を繰り返さない」この一念で五年の歳月が過ぎました。今も故郷福島の声にならない悲痛な叫びが聞こえてきます。原発問題を考え、法廷闘争と運動推進の中で何か足りないものを感じていたなかでこの本に出会い、大きな光を頂き読み終えることができました。