書評Books 本書そのものが、「双方向性」をもつ好書
『心のケアとコミュニケーション』
柏木哲夫 著
B6変判 1,200 円+税
いのちのことば社
日本伝道福音教団 鶴瀬恵みキリスト教会 牧師 堀 肇
本書は本誌に二年間連載されたものですが、改めて読み直してみて丁寧な考察を経て著された本だと思いました。どの話題、どのテーマにも著者の長年の精神科医・ホスピス医としての臨床知や深い人間理解が感じられます。この職業にして書くことのできる内容ばかりで、読者は本書を通してものの見方や人間関係について他では得られない気づきが与えられること間違いなしです。
本書は副題に「恵み・支えの双方向性」と記されているように、物事を双方向的に見たり考えたりすることによって得られる気づきや洞察が幾つかの側面から取り上げられています。著者の立場ですと、まさにホスピスケアがその典型であり、医療スタッフと患者さんは、与える・受けるという双方向性を持っているわけです。その双方向性の内容は「ケア」に始まり、「コミュニケーション」、「人間の特性」、「言葉」、そして「信仰」にも及んでいます。
中でも職業柄か、特に印象深かったのは講義や講演などは単に「一方的に聴衆に向かうのではなく、聴衆から私に向かうベクトルが存在します」との洞察です。「語る」だけでなく「語らせられる」と述べておられますが、筆者は牧師・教師として常にそうした関係の中にいるためか、身に染みて納得しました。説教や牧会ケアなどはまさにそのとおりだ思わされました。
加えてもう一つ興味を抱いたことは、「還暦を過ぎてから言葉にこだわるようになりました」というお話です。例えば「人生」という字を見ていると「人として生まれる」とも「人として生きる」とも見えてくるといった関心の寄せ方です。本書には意味深い言葉へのこだわりが随所に登場しますが、これは著者がさまざまな事象をきちんと見て、人生を丁寧に生きてこられたことの証しだと思いました。本書には興味深い話題が満載されていますが、一読・再読してみて、最後に気がついたことは本書そのものが「双方向性」を持っていることです。すなわち「読ませられる」本だということです。手に取られる方は、ぜひ熟読・味読していただきたいと思います。