自然エネルギーが地球を救う 第15回 風の活用 これからの可能性

足利工業大学理事長 牛山 泉

人類は大航海時代には帆船によりグローバル化を成し遂げた。また、蒸気機関による産業革命以前の動力源は風車と水車の時代であり、風車が林立したオランダでは、最盛期の十七世紀には粉挽き用風車と海岸低湿地を干拓するための揚水用風車が合わせて一万台近く回っていた。
一方、歴史は浅いもののアメリカ風車も忘れることはできない。十九世紀初めから二十一世紀の今日に至るまで、アメリカ中西部を中心とする開拓地や牧場においては、西部劇でおなじみの多翼型の揚水風車が多数使われていた。その数は延べ七百万台にも達するといわれ、今日でも十万台以上が使われている。大航海時代の大型帆船、沿岸漁業や内陸航路の小型帆船、さらには、わが国の江戸時代の北前船も典型的な風力利用である。人間は風を利用して社会を築いてきたのである。
また、風は私たちの食生活にも直結している。日本では魚の干物、するめ、のり、干し柿、切り干し大根、そうめん、乾燥芋など、海外では欧州の乾燥ソーセージや生ハム、中近東の乾燥ナツメヤシ、各地の干しぶどう、台湾強風地のビーフンなど、それぞれの土地の風が生み出した風土産業製品がある。農牧業技術や漁業技術、さらにはそれらの加工技術は時代とともに変化しても、風土産業の基になっている気象条件は大きくは変わっていない。適地適作と同様に、各地域の気候の特徴を生かした食品の価値は高くなる。

さて、これからはエネルギーと環境が大きな課題である。世界の風力発電の累積導入量は二〇一六年末で四億九〇〇〇万キロワットに達し、原発の累積導入量の三億八〇〇〇万キロワットをはるかに超えている。また、デンマークでは電力の四〇%を風力発電で賄っており、国土面積も工業レベルもわが国とほぼ同じドイツにおいても電力の一五%を風力で賄っている。ひるがえってわが国は〇・七%程度にすぎない。では、日本に風は吹いていないのか。十分に吹いているのだ。例えば北海道電力の管内では、北海道電力の発電設備容量六〇〇万キロワットの十一倍にも相当する約六五〇〇万キロワットという風力ポテンシャルがあり、東北電力の管内では東北電力の設備容量一六〇〇万キロワットの二・五倍に相当する風が吹いている。これらのエリアには風力発電専用送電線を新設する計画が実施されつつあり、最大のネックが解消されようとしている。
また、風力発電の実績を積んできた日本風力発電協会では二〇二〇年の導入目標を一〇九〇万キロワット、二〇三〇年で三六二〇万キロワット、二〇五〇年には電力消費の二〇%を風力で賄うために七五〇〇万キロワットを設置目標としている。特にわが国は国土面積は狭いうえに、その七割近くが山岳丘陵地であることから陸上での風力発電には限界があるが、周囲を海に囲まれており、洋上風力発電が期待されている。十五世紀末に大航海時代が始まったが、ヨーロッパ大陸最西端のポルトガルのロカ岬には、インド航路を拓いたバスコ・ダ・ガマの偉業を讃える碑文の「ここに陸終わり、海始まる……」で始まる詩がある。二十一世紀は洋上風力発電が始まるのである。また、陸上では風力発電による景観問題や騒音問題のような環境影響が課題となるが、洋上ではこれらの課題はほとんどなく、漁業との共生などを考える必要がある。

また、風力発電の技術的な課題としては、電力系統に風力や太陽光による変動電力を接続することの制限が設けられているが、デンマークはノルウェー、スウェーデンと結ぶ強力な電力網に変動電力を流して、ノルウェーの水力発電による安定的な電力を取り込んでいる。わが国の場合には、再稼動できない原子力発電所に併設されている揚水発電所を利用することが可能である。また、風力を直接に熱変換して熱貯蔵し安定的に蒸気タービンを運転する風力熱変換方式も、日独を中心に開発が進められている。さらに、風力発電の電力で水の電気分解を行い、これを燃料電池の燃料に使う風力水素発電システムも有望である。
こうして特に福島原発の事故以降、原発に代わる発電システムは再生可能エネルギーでという流れが強いが、課題もある。旧約聖書のノアたちが、洪水を生き延びる手段として箱舟を啓示された。ここには信仰的かつ倫理的な課題が表されていて、技術的手段で自然を支配し解決するという啓蒙主義的な解釈の萌芽が見られる。
一方、自然と人間が共生しているという、日本的、東洋的な発想こそが持続可能な社会を保障するのではないかともいわれるが、聖書が教える被造物管理の命令を私たちがどう解釈するのかが問われる。神が創造された自然の秩序を尊重しつつ、そこから持続可能な恵みを享受するための知恵が必要とされている。