書評Books 神は聖書に閉じ込められていない

ヴォーリズ記念病院 ホスピス長 細井 順


『ホスピス わが人生道場』
下稲葉康之 著
四六判 1,200円+税
いのちのことば社

「神の癒やしと祈り、ホスピスの心を」
これは一九九八年十一月九日、福岡亀山栄光病院ホスピスを見学させていただいた折、ご著書『いのちの質を求めて』に書き添えていただいた下稲葉先生からのメッセージである。あれから二十年を経て、先生の最新刊に拙文を寄せることになろうとは……、神様のニクい計らいに畏れ多く、他方ではうれしくもあり、心から感謝をささげたい。
先生は日本のホスピス緩和ケアをここまで育ててこられたお一人で、先達としてのご功労は計り知れない。
医師と牧師という二つの顔をお持ちの先生は、複眼的に患者さんを見つめてこられた。本書に綴られた幾つものエピソードは、神の癒やしと祈りがホスピスの心だと語っている。そこから浮かび上がる先生のホスピス観は正に牧師のそれである。「強制的に退院させることがあっても、僕が自分の家にひきとってでも面倒をみる! あなたを見捨てるわけにはいかん!」という一文は医師の言葉ではない。ここまで言いきるには牧者としての自覚が備わってこそに違いない。
先生がこの書で明らかにされたことは、「聖書の神は決して聖書に閉じ込められているお方ではなく、この二十一世紀のホスピスにおいても『生ける神』として力強く働いておられること」である。さらに、緩和ケアの行く末を憂慮され、「スタッフも同じ弱さをもつ立場であることを銘記して、死とその課題を共有するような絆を追求すべき」と原点回帰を提唱されている。
フランクルは『死と愛』の最後で、「医学と宗教の二つの国の境界線を歩く者は両方の側から不信の目でみられることを顧慮しなければならないが、そこは何という約束の地、望み多き土地だろうか」(霜山徳爾訳)と記している。
先生はフランクルの言葉を実証された。その記録が本書である。先行きが見通せず、心もとない時代の拠り所に悩む人、信仰の用い方を探りたいクリスチャン、最近のホスピス緩和ケアに飽き足りない医療関係者に一読をお勧めしたい。