特集 今も働く神の歴史の物語 世界を統べ治めるお方のイメージ

カラー写真もたっぷり!
『写真で訪ねる信仰遺産―日本キリスト教史の夜明け』
伊東泰生:写真 熊田和子:文
B5変型判 64頁
定価1,400円+税

 

クリスチャン新聞 編集顧問 守部喜雅
長崎のカトリック教会群が、ユネスコの世界歴史遺産として登録申請されるという。ただ、建築物としては一番古いものでも大浦天主堂の百五十年前の建物ということで、歴史遺産としての価値は低く、四百年前のキリシタンの殉教の記録をはじめ、その信仰の遺産をも含めた登録となるようだ。
では、プロテスタント教会における信仰の歴史遺産はどうだろう。このたび発行された『写真で訪ねる信仰遺産』は、その一端を、鮮やかに現代によみがえらせてくれる写真集である。
内容を紹介すると、「日本最初のプロテスタント教会・横浜海岸教会の鐘」「大分・旧キャラハン邸」「東京・本郷教会のリード・オルガン」「愛を形にしたヴォーリズ建築・旧マッケンジー邸」「自由民権運動家・片岡健吉の聖書」「安中教会と柏木義円の上毛教界月報」「日本の山間地域伝道の礎となった十五人の宣教師」「東奥義塾と弘前基督公会・郷里伝道の熱き思い」「日本の水産学研究の草分け・内村鑑三と天然学」「社会の向かい風をはね返した女性医師のさきがけ」「日本最初のオリジナル賛美歌・組合教会讃美歌」「伝道者・植村正久の試み、西欧文学の導入」そして、付記として「隠れキリシタンの里・茨木」が貴重な現地写真とともに紹介されている。
この写真集の魅力は、歴史遺産の細部にこだわっていることである。たとえば、日本を代表する思想家・内村鑑三の水産学者としての業績でもあるアワビ発育過程の標本――。あの内村が、「天然学」を標ぼうし、真理と神とに到達するにはまず、自然界に身を置くことであると語った意味が分かるような気がする。また、今から百二十年前、日本の山岳地方に導かれ、苦闘の宣教活動を行った女性九人を含む十五人の宣教師の物語は、当時、天幕伝道で使われた大太鼓や、最初の洗礼式の写真を交え、時空を超えて私たちの胸に迫ってくる。現代は、若者の活字離れが言われるが、この二十代後半の女性宣教師たちの来日時の写真を見るだけで、心揺さぶられ、自らの人生を反省する若者が出ても不思議ではない。
この写真集に収められた写真の多くは信仰遺産のある現地に飛んで撮影されたものだという。では、信仰遺産とは何か。それは、今も働かれる神の歴史の物語ということができよう。神の歴史は、今も、生き生きと私たちにこう語りかけてくる。「お前の信仰生活は、それでいいのか」と。
信仰の成熟というテーマについて考えてみよう。それは、クリスチャンが、どのような、神のイメージを抱いているかということと深く結びついている。『あなたの神は小さすぎる』という本を読んだことがあるが、私たちが、信仰の成熟を望むなら、まず、創造主であり救い主である神にどのようなイメージを抱いているかを再検討する必要がある。そのお方が、せいぜい自分の幸せのためだけにある神なら、ご利益を求める巷の宗教と変わらない。だが、すべてを統べ治め、人間の歴史もこのお方の御手の中にある、という信仰に立つ時、神が私たち一人一人にご計画を持っておられることを知るだろう。世界を統べ治めるお方、人間の歴史を支配されるお方、として、神のイメージが私たちのものとなるとき、それが信仰の成熟につながっていく。
「写真で訪ねる信仰遺産」は、自分の信仰を問い直す機会を与えてくれた。本編はプロテスタントの信仰遺産が紹介されているが、最後に付記として紹介されている「隠れキリシタンの里・茨木」は、日本における神の歴史をさらに四百年も遡って、神が、これほどまでに日本を愛し、その救いのみ業を成し遂げられたという証しを知ることができる。