書評Books ぬり重ねることによって聖句に対する体験が豊かに広がる

精神科医・駒込えぜる診療所 院長 芳賀真理子

 

『ぬり絵で楽しむ 聖書の美しい世界』近藤圭恵 著
B4変判 1,300 円+税 フォレストブックス

有彩色の可憐なデザインの表紙をめくると、無彩色なのにどうしてこうも眩いばかりの世界が広がるのかと、驚きをもって鑑賞した『ぬり絵で楽しむ聖書の美しい世界』。
この本は、著者あとがきによると「聖書に書かれている言葉を私の中で黙想しながら浮かんできたものを絵で表現するという試み」から生まれたとのこと。
著者が黙想した聖書の言葉も、そして絵も、希望と癒やし、励ましと愛に満ちており、「ぬり重ねるごとに、癒やしと励まし、希望と愛があふれてくる……」と、この本のキャッチコピーは告げていますが、読者が「ぬり重ねる」前からもうすでに、無彩色の繊細な線で描き出す形には光と希望、慰めが満ち満ちています。この本では旧新約聖書の中から二十二の聖句の世界が描かれており、著者の黙想から出た絵に読者自身の感覚も触発され、聖句に対する読者の個人的な体験がもっと豊かに広がる仕掛けにもなっているようです。これは著者によるところの「私に関して言えば、絵を描くということが神様からのギフトです」との感動が絵に現れ、その中に飛び込む読者も「神様のギフト」に与る、ということになっているのかもしれません。
さて。どの聖句の世界からぬっていこうか、でも下手に自分でぬってしまうのがもったいないし、と悩みつつ、わたくしはまずエペソ人への手紙からの聖句が書かれたステンドグラスの絵をぬり始めます。おそらくこの本はどこからぬり始めても構わないと思いますし、ぬり絵そのものの魅力として、最初は薄塗りで徐々にぬり重ねていくという、色を磨いていく面白さもあります。
ぬり方のうまい下手とか、常識的な色の配置とかにとらわれることなく、自分にとって好きな色を好きな場所にぬっていくということに集中していると、とても開放的な気持ちになってきます。色鉛筆も水彩色鉛筆などもあるので、自分にあった画材でぬったり消したり混ぜたりこすったり削ったりしていると、あっという間に時間が過ぎていきます。そして気がつけば、心のもやもや、ぷすぷすもどこかに消えている、はず。