書評Books 地べたから見たイエスがもたらす新たな感動
仙台聖書バプテスト教会 牧師 鈴木 茂
『私の知らなかったイエス』
フィリップ・ヤンシー 著、山下章子 訳
四六判 2,400円+税 いのちのことば社
信仰の旅路の中で、知っていたようで、知らなかったことに気づかされることがたびたびあります。著者は、今まで持っていた前提や固定観念を一旦脇において福音書から改めてイエスを見直しています。著者は、イエスの時代とかけ離れたスタンスからイエスとイエスにまつわる出来事を傍観して神学を解き明かすのではなく、実際にパレスチナの塵の舞う道を歩まれたイエスのすぐ後を新鮮な眼差しをもってついていくのです。「イエスの人生を、イエスの後にくっついていった大勢の中の一見物人として、地べたから見たいのだ」(二八頁)。読者は著者の信仰の目を通して描写されるイエスを通して、今まで見ることができなかったイエスを垣間見ることになりますし、またイエスをもっと深く知り、体験したいという勇気ある一人の信仰者の探求の旅物語としても読むこともできます。
今まで知らなかったイエスに出会うことによって、今まで気づかなかった真の自分にも出会うことにもなります。痛みと喜びが伴うこの不思議な二重の出会いの中で、神が深い変革をもたらす光を私たちに帯びさせてくださることに気づかされます(二九頁)。
著者の優れた描写によって、読者はイエスやイエスの周囲で起こる出来事や会話の中に、自然に引きつけられていきます。実際の出来事からかなり離れた時代に生きている私たちなのですが、読んでいるときにはまさしく当時の群衆の中でイエスを見つめている自分を発見します。「イエスの現場」と「今」が重なり合っていくような臨場感があります。
「地べたから見たイエス」という著者の新たな信仰の冒険によって見いだされるイエスは、今の時代をキリストの足跡をたどって生きようとする私たちに、新たなる勇気と動機づけを与えてくれます。また、このイエスに、私たちは悪と罪の現実と向き合い、永遠の救いをもたらしてくださった天の父なる神を改めて見ることができます。本書を読み終えて心に残るイメージは、天の父なる神の愛を映し出すイエスの眼差しです。