書評Books 総合的にどうすれば良いのかを 個々に考えていく看取り
淀川キリスト教病院 理事長 柏木哲夫
『しあわせな看取り』
岸本みくに 著
B6変判 1,100円+税
いのちのことば社
著者の岸本みくにさんとは、淀川キリスト教病院のホスピスで、数年間一緒に勤務しました。はっきりとした信仰を持ち、はっきりと物を言う、優秀な看護師さんでした。彼女の友人であるクリスチャンのナースは私に「岸本さんは、みことばでしか動かない人です」と言いました。岸本さんがホスピスを辞めて訪問看護の道に進みたいと申し出たとき、彼女を引き留めたかったのですが、きっと彼女はみことばに動かされたのだと思いました。
本書はみくにさんの訪問看護師としての専門性と彼女の信仰がintegrate(統合)されたものだと感じました。末期の患者さんのケアの特徴の一つは個々性(個別性より個々性というほうが適切だと私は思っています)を重んじたケアだと思います。Aさんに良かったことがBさんに良いとは限らないのです。一般の病気のケアをマニュアル化することは比較的に容易なのですが、末期のケアのマニュアル化は難しいのです。療養の場所、死を迎える場所も人それぞれの希望があります。みくにさんは訪問看護という立場で在宅での看取りに取り組んでこられたのですが、時には入院という選択がふさわしい場合もあると述べておられます。私はホスピスという場で約二千五百名の患者さんを看取りましたが、自宅で亡くなられたらもっとよかったと思える例もあります。この人にとって、この人の家族にとって、そして総合的にどうすれば良いのかを個々に考えていくことが大切だということです。
本書のもう一つの特徴は、信仰が見事にケアの場に生きているということです。「私には神様とのホットラインがあります」とみくにさんは書いておられますが、ケアのプロセスで困ったとき、判断に迷ったとき、みくにさんはいつも神様とのホットラインをオンにします。祈りのうちにその答えを見いだすという基本的な姿勢はすばらしいと思います。生と死に関心を持っておられる多くの方々に一読をお勧めします。