時代を見る眼284 いのちをみつめて [2] 声なきいのちの声
マナ助産院 院長
永原郁子
今年も早々から乳児の遺棄事件が後を絶ちません。1月6日に茨城県常総市でへその緒がついた赤ちゃんの遺体が用水路に捨てられていました。1月12日には愛知県豊田市で11か月になる三つ子の次男が母親に床に投げつけられて死亡しました。1月29日、大阪府箕面市でへその緒がついた赤ちゃんがバスタオルに包まれて押し入れに遺棄され、3月3日、神奈川県川崎市でアパートの通路に赤ちゃんの遺体の入ったバッグが置かれていました。昨年2017年には1か月に1~3人の乳児が遺体で発見されています。
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厚労省は子ども(0歳から19歳)の虐待死数を13年間にわたって報告しています。13次(平成27年)の報告では心中以外の虐待死数は52人。心中を含めると84人にも及びます。その中でも0歳児の虐待死数が最も多く30人(心中を合わせると40人)。0歳児の中で最も多いのが0か月で13人。0か月の中でも最も多いのが0日で11人でした。その加害者の98.4%は実母。また11人全員が妊娠中に病院で受診しておらず、出産も孤立出産でした。
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加害者になった女性たちは予期しない妊娠にどれほど戸惑ったことでしょう。また妊娠期間中だれにも言えず、どんなに不安だったでしょうか。
5か月ほどになると胎動を感じ始めます。通常なら喜びですが、赤ちゃんが動くたびに恐怖を感じたことでしょう。時が満ちたら、確実にお産の日がやってきます。孤立出産とは専門家の助けを借りず、自宅など出産施設以外の場所で出産をすることですが、それは大変危険なことです。そして生まれた赤ちゃんは泣きます。いのちとはたくましいものです。しかし、女性たちは発覚することを恐れて殺害に至るわけです。
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私は日ごろ喜びの出産に立ち会いますが、生まれた赤ちゃんは本当にけなげで、目の前の母親に全幅の信頼を寄せているかのような表情をします。しかしその母親にいのちを絶たれるのです。いたいけな赤ちゃんの声なき声とともに、母親のこの悲痛な叫び声を聴き取りたいと思うのです。