書評Books 教会が歴史を通して信じ告白してきた大切な言葉

『三位一体とは何か』
R・C・スプロール 著
三ツ本武仁 訳

B6判 900円+税
いのちのことば社

日本キリスト教団 マラナ・タ教会 牧師 久下倫生

キリスト教といえば三位一体、三位一体といえばキリスト教と言われるほど、この言葉は有名であり誰もが知っているが、では説明してほしいと言われると、ほとんどの人が答えに窮する難しい概念である。三位一体について主日には説教したくないという牧師もいるくらいである。「三位一体とは何か」を書こうとすると、神学者や哲学者が、何百ページにもわたって細かい議論を重ねることになりそうだ。ところが保守派に属する改革派の教師が、まるでパンフレットのように、手軽に三十分で読めるように「三位一体」を説明した。
五章立てになっているが、初めの三章では、唯一神論の説明、それが聖書にどう描かれているかの話、初代教会の論争紹介と、三位一体を教科書風に教えてくれる。しかしそのあと、哲学的議論が展開される。「本質において一つ、位格において三つ」という教会の教義の成立プロセスと論争である。読者はここでかなり戸惑いそうに思える。「存在、生成、非存在」というギリシア哲学の概念が出てくるし、「実存と本質の違い」が語られる。やはり、これは難しい。著者は読み手が難儀することを承知していてこう励ます。「細かい区別をすることは神学者の特権。神学は区別すること。『最も重要な区別の一つは区別と分離を区別すること』だといつか学ぶことになる」と。その上で「混ざらず、変わらず、分かれず、離れてしまわない」イエス様の神性と人性を、「分離するな、区別せよ」と主張する。
「三位一体という神学用語ができたのは聖書の教えを曲解しようとした異端との戦いの結果ではあるが、三位一体は教会が歴史を通して信じ告白してきた大切な言葉である」と著者は言う。同じように教会が大切にしてきた洗礼や聖餐について書かれた『洗礼とは何か』と『聖餐とは何か』も併せて読むと見えてくるものがあって楽しい。三冊とも同じ著者で、同じ訳者の心のこもった分かりやすい翻訳である。