書評Books すべてに意味があり、神が最善に導かれることへの希望
福音歌手 森祐理
『廻り道をしたけれど』
宮田まいみ 著
四六変判 1,200円+税
フォレストブックス
「万座の湯は癒やしの湯……」。百五十年近い歴史をもつ万座温泉日進舘。その老舗旅館の長女として生を受けた著者が、心の葛藤をありのままに綴った半生記は、普通の女将奮闘記とはまったく違う作品です。旅館の業務で忙しい母の愛を求める心、多くの人々に囲まれる中での孤独、それらが驚くほど素直な言葉で表されているのです。
大学生となり、東京に出てきて発症した鬱病、自殺未遂……つらい出来事さえも柔らかな表現で綴られていて、読み進んでいくうちに、この苦しみが、何かの希望へと繋がっていくことを予感させます。その後、心の病から立ち上がるきっかけとなるのが、なんとロックとの出会いだったのです。ロックシンガーとして活躍する中で、夢破れ、ふたたび万座に戻って行く著者。その姿に、以前私自身もミュージカル歌手を目指した経験が重なって、胸が熱くなりました。
万座温泉日進舘で最初に携わった業務は、なんとトイレ掃除とクレーム処理。華やかな芸能界とはまったく違う裏方の仕事を黙々とこなす中で、いつしか心の病が癒やされ、充実した日々を過ごせるように変えられていくのです。華やかなスポットライトで癒やされなかった心の病が、誰にも見られない地味な仕事の中で癒やされていく……なんとも不思議な気がしました。
今、二代目女将として輝いて働いておられる著者の姿を見るとき、「神様の導きの素晴らしさ」をほめたたえずにはいられません。「無駄だと思った『過去』が『今』を形づくる」との表紙帯の言葉は、読後に、大きな説得力をもって響いてきます。最後に、クリスチャンである著者はこう結びます。「神のなさることは、時にかなって美しい」。思わず、アーメン! 口ずさんでしまいました。私たちおのおのの人生にも、「廻り道」と思えるような出来事があると思います。でもすべてに意味があり、神が最善に導かれるのだと希望をもつことができる作品。モノクロームのオシャレな装丁とともに、お薦めの一冊です!