“福音派とは何か”自分を知るために役立つ本
『分断と排除の時代を生きる
―共謀罪成立後の日本、
トランプ政権とアメリカの福音派』
中村 敏 著
A5判 1,000 円+税
いのちのことば社
日本同盟基督教団 世田谷中央教会 主任牧師 安藤能成
副題のサブタイトルの「共謀罪成立後の日本、トランプ政権とアメリカの福音派」という文言を目にすると、あたかも政治評論のように思えますが、著者は評論家ではありません。
本書の内容は著者がキリスト教歴史学者であり、特に戦時下に弾圧を受けた日本の福音派の流れを汲む立場に立っているからこそ向けるべきところに目を向けていることがわかります。同時に学者であり神学校長という、およそ自分の専門分野に閉じこもりがちな立場にありますが、決してこもることなく一般社会の報道にも敏感で、それらのことについて信仰的な立場から外れることなく、神学者ゆえの深い洞察と広い見識から出て来る適切な見解を述べています。特に日本の福音派とトランプ政権をバックアップしている米国の福音派の近似性と異質性が明快に述べられていて、とてもわかりやすい内容になっています。
また本書の内容と同様の課題を扱っている既刊の本を紹介することによって、独善的な見解に陥ることなく論評していることは評価に値します。そして取り上げられている課題について、単に紹介と評価を加えて終わるのではなく、一人の神学者として明確なメッセージを伝えているところに本書の価値があります。また福音派と呼ばれる教会に属していながら、福音派とは何かということが今一つわからない人にとりましても、自分を知るために役立つ本だと思います。
流動的な世界における米国トランプ政権では今、米中関税貿易戦争、EUとの対立、国連機関からも離脱する一国主義、孤立主義が見えて来ている中で、まことにタイムリーな一書だと言えます。
書き方も長い論文のようなものではなく、短い括りでわかりやすく工夫されていますので、誰でも一気に読み終えることができます。私はこの著書を中村敏氏が学院長を務める神学校の理事会の折に受け取り、帰りの新幹線の中で読み切りました。あれば続編を楽しみにしています。