書評Books『パウロ研究の新しい視点』の核心を突く書
日本キリスト改革派宿毛伝道所 牧師 牧田吉和
『「パウロ研究の新しい視点」再考』
コーネリウス・P・ベネマ 著
安黒務 訳
B6判 1,300 円+税
いのちのことば社
本書は小著ではあるが、内容が凝縮された好著である。本書の内容は、キリスト教界で現在も話題になっている「パウロ研究の新しい視点」についての紹介とそれに対する著者の批判的評価である。原著者コーネリウス・P・ベネマは、歴史的改革派神学に堅く立つ「アメリカ中部改革派神学校」の校長であり、組織神学教授でもある。
「パウロ研究の新しい視点」といわれる立場にはE・P・サンダース、D・G・ダン、N・T・ライトといった人々が属している。この人々は、宗教改革のパウロ解釈は中世カトリックの功績的救済理解に対する反対という枠組みに規定されており、それによってパウロ解釈がゆがめられてしまったと考える。むしろ、当時のパレスチナ・ユダヤ教の歴史的文脈の中でパウロを解釈しなければならないとする。このパウロ解釈の見直しは、宗教改革の根本的教えである信仰義認論への異議申し立てに導くことになった。この事実は信仰義認論に立脚するプロテスタント教会を根底から揺さぶることになり、激しい論争をもたらした。
著者は、宗教改革の信仰義認の教えをまず確認し、次に上述の三人の神学者のそれぞれの見解を的確に紹介し、最後に聖書に従ってそれらの見解を批判的に検証し、宗教改革の信仰義認の教えを擁護している。叙述は終始明晰であり、説得力がある。
「パウロ研究の新しい視点」のそれぞれの見解を正確に理解するのは専門家でさえも簡単な仕事ではない。事柄は信仰の心臓部に関する問題でありながら、信徒の方々にはほとんど理解不可能である。しかし、本書は専門家にとっても事柄を整理するのに役立ち、信徒の方々にも何が問題となっているかがよく理解できる書である。信徒の方々にもぜひ読んでいただきたいと思う。平易にして核心を突く書である。
訳者はすでに多く重要な書を翻訳出版されている。その精力的な神学活動に敬意を表するとともに、本書の翻訳の労に心から感謝したい。